第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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数えきれない触手が鎖の中へと侵入する。 表面を突き破り、遠慮も無しに入り込む。 ゾクッ……! 鎖から伝わるなんとも言えない感触に、僕の身体に鳥肌が立つ。 き、気持ち悪い……! 痛みはないけど、尋常じゃない違和感に頭の中がグラグラする。 透けて見える鎖の中は、入り込んだ数多の触手で埋め尽くされている。 それが中でせわしなく動き、感触的にも視覚的にも背中がゾワリと冷たくなった。 浸食される……まさにこんな感覚で、だけども何も出来なくて、僕はただ、白い触手の、互いが互いを絡め合って融合し、形状変化をし続ける……そんな再構築を凝視していた。 鎖の中では僕の霊力(ちから)と瀬山さんの霊力(ちから)が激しくせめぎ合っていた。 これは……霊力(ちから)比べだ。 ああ、違うな、そうじゃない。 元より勝負になってない。 瀬山さんの霊力(ちから)は圧倒的で、僕は赤子同然だ。 あっという間だった。 赤い光は白い光に内側から呑み消されてしまった。 「瀬山さん……これって……」 今の……なに? 僕の手には、まだちゃんと“鎖の親玉”がある。 でもこれは僕のじゃない。 だって色が、空気が違う。 ここにあるのは白い塊(・・・)だ。 そして塊から伸びる鎖も赤じゃなく、白なんだ。 乗っ取られた……? 形はそのままに。 真珠の鎖に立つ瀬山さんは、風になびく前髪を鬱陶しそうにしながら、 『岡村さん、少々荒っぽいけど許してね』 そう言って眉を下げた。 そして両手両五指、軽く内側に曲げる。 「……ッ!」 突然の浮遊感。 同時に視界が回転し、瀬山さんの姿が消えたと思った次の瞬間。 僕の視界に曇り空が広がった。 一体……何が起きた……? 立っていたはずなのに、地面の感触は足の裏ではなく、背中一面に感じてる。 一瞬だ、一瞬で体勢が変わった。 なぜ僕は寝てるんだ? 現状が把握できない。 とにかく起きよう、 起きて、何がどうなっているのか確認して…… や、待て、 なんで? 僕、動けないんだけど……!
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