第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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パニック寸前だった。 ____岡村さん、少々荒っぽいけど許してね、 そう言った瀬山さんがした事は、手指を軽く曲げただけ。 その直後、僕の身体は地面に転がり、手足の自由を奪われた。 何が起きたか一瞬過ぎてわからなくって、それでもなんとか首を起こして自分の身体を見たんだ。 「なにこれ…………、」 思わず声が漏れる。 端的に言えば、僕の身体は拘束されているのだが、縛っているのは鎖じゃない。 僕が霊を拘束する時は、赤い鎖で縛るのだが、そんな単純なモノじゃない。 僕を縛るソレは網のようなものだった。 視た印象は料理に使う”網脂”によく似てて、その網が僕の全身、つまり足先から首の下まで、グルグル巻きに絡みついて食い込んで、身体の自由を奪っているのだ。 しかもご丁寧に腕も手指も一緒にね。 ミノムシみたいな恰好で、これじゃあ動くどころかコッソリ印も結べやしない。 現状を少し知る事が出来た僕は、僅かだが落ち着きを取り戻した。 なので地面に転がる身を捩り、どうにかこうにか首を動かしたんだ。 動きにくい事この上ないが、何度目かの挑戦で、視界から消えた瀬山さんを視付ける事が出来た。 地面から目測3メートル。 白の(・・)鎖の先端で膝を着き、申し訳なさそうな顔で身を乗り出していた。 『ごめんね、痛くない? なるべく優しくしたつもりなんだけど……』 「大丈夫です、痛いとかはぜんぜんないですから。ただ、驚きました。一瞬すぎて何が起きたかわからないうちに……拘束されてました」 ははは、なんて笑ってみたけど本当にそうだ。 これリプレイ視ないと何があったかわからない(動画なんて撮ってないけど)。 『何をして何が発動したからこうなった、というのは、後でちゃんと説明するからね』 「ありがとうございます、是非! あの……瀬山さん、その前に一つ聞いてもいいですか? 僕の構築した赤い鎖はどこにいったんでしょう……? 瀬山さんの白い触手っぽいのが鎖に入り込んで、それでちょっとしたら色が変わったんだ。変わってからの鎖は僕のじゃなかった。あれって……その、変な言い方でごめんなさい、赤い鎖を瀬山さんが乗っ取ったんですかね?」 乗っ取った、なんて言葉が悪いかなと思ったけど、僕の鎖は形はそのままに(・・・・・・・)色が変わってしまったんだもの。 そうとしか言いようがなくて……なんかすみません。 『ご、ごめんね。せっかく岡村さんが構築した鎖なのに。だけどそうだよ、乗っ取ったんだ。キミの鎖に私の霊力(ちから)を入れ、内側から破壊したの。そしてそれを取り込み、最終的には私の意のままに操れるようにした。ねぇ、岡村さん。キミが大事に持っていた鎖の親玉は今どこにあると思う? 本来キミが手を離したら鎖は消えるはずでしょう? だけど私は今、その鎖の上に座ってる』
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