第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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「……いなかったです。よく思い出したんだ、だけど構築したモノを再構築する霊媒師はいない、」 僕がそう答えると、静かに頷く瀬山さんはこう言った。 『そっか。……岡村さんの先輩方はみなさん優秀だと聞いてます。だから再構築が出来ない訳じゃないと思うんだ。うんと練習して技術を習得すれば……出来るようになるかもしれない。ただ、その練習が大変だ。私が生きていた当時、”瀬山の家”で再構築が出来る霊媒師は一人もいなかった…………ああ、でも。”元、瀬山の霊媒師”なら一人、再構築が出来るのがいるな。岡村さんがよく知ってる人だよ』 「それって……”瀬山の元霊媒師”で、僕のよく知ってる人といったら先代しかいない。”再構築”というものがある、というのは前に先代から聞いた事がある。そっか、先代は出来るんですね……さすがだな、今度視せてもら…………あーっ! って、スミマセン、大きな声出しちゃった! そうだ! 思い出しました! 先代、僕の目の前で再構築をした事があったよ!」 あれは春、結婚すると決めた社長とユリちゃんの、両家顔合わせのあの日。 社長のオウチに僕と先代と大福とユリちゃん、みんなでお邪魔したんだ。 それで……玄関で靴を脱ぐ僕の横で、先代は印も組まないノーモーションで外履きの靴を靴下だけに再構築してさ、それを視て驚いた僕に『幽霊って便利でしょう?』と親指を立てた……★ 「思い出した! 確かに先代は再構築してました! 霊力(ちから)で作ったモノ(・・)を再構築したんじゃないけど、したのは先代自身(・・・・)だけど!」 当時の事を瀬山さんに説明すると、 『モノでもヒトでも、電気の集合体を再構築するなら理屈は同じだ。ただ……あんまり自分自身を再構築する幽霊(ひと)はいないけどね。リスクが高いもの。だけど……私と平ちゃんはしちゃう、』 言いながら瀬山さんは、昨日の熱風を起こした時のように、タンッと小さく地面を蹴った、その時、 ブンッ、 電子機器の起動音に似た音がして、瀬山さんの霊体(からだ)にノイズが走った。 縦に無数の光り輝く白線が、激しい雨のように上から下へと流れていく。 その雨は瑞々しい若い霊体(からだ)をあっという間に溶かしてしまい…… 『これが自分自身(・・・・)の再構築だよ』 そう言って広げた両手は枯れ木のようだった。 サラサラの黒髪はごわついた白髪(はくはつ)となり、顔中に散りばめられたシワは深く、一気に年を取っていた。 「瀬山さん……その姿は、亡くなられた時の?」 『うん、私は享年70才。本来の姿はこれだ。ただ、妻は22才で若いからね。これでも良いと言ってくれたけど……夫がこんなお爺ちゃんじゃあ、さすがに可哀そうでしょう?』 目元のシワをさらに深く。 年老いた姿で笑った瀬山さんは、もう一度足で地面を踏み鳴らすと元の(や、どっちが元だ? どっちもか?)若い姿に戻った。 ★先代が靴を靴下に再構築させたシーンがココです(*^_^*) https://estar.jp/novels/24474083/viewer?page=450&preview=1
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