第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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強く感じる違和感に、足を止めて凝視した。 先代の後ろ側。 漂う霧は濃厚かつ広範囲。 かなりの上空まで靄が立ち、かなりの幅で横に広がる。 ぱっと視、天から下がるカーテンのようだった。 「変な霧だな、……」 漠然とした不安で独り言ちるも、先代はニコニコと笑ってる。 すぐ背後に霧があるのに気にする様子もない、って事は、悪いモノではないのだろう……ヨシ! 気を取り直して、イザ! 先代の元へ! 残り数メートルを完走し、大好きな先代の前に立った。 その顔は若く、幼ささえも感じる。 でも温かい眼差しは、やっぱり僕の先代に違いなかった。 『早かったですねぇ。(ここ)に来るまで、もっと時間がかかるかと思っていました』 うわぁ……やっと会えたぁ、どうしよ、優しいぃ。 これだけで僕、泣きそうだよ。 「助けてもらったんです。霊視のやり方とか、瀬山さんの気配の追い方とか、僕一人じゃ思いつかないようなコト、みんなが教えてくれました。それと、大和さんのお友達ご夫婦には家に泊めてもらってご馳走もいただいたんです。あと大福も、何度助けてくれたかわからない」 『うんうん、そっかそっか。みんなが助けてくれたのか。良かったねぇ、ありがたいねぇ。岡村君もよく頑張りましたねぇ。昨日は? 瀬山さんの訓練を受けたの? あの人いつもは優しいけど、訓練中は厳しかったでしょう。でもねぇ、キライにならないであげてねぇ、だってそれも愛情なのよ。ちゃんと教えないと岡村君を危険な目に遭わせてしまう。現場でケガをさせたくないって思うが故の厳しさだから、わかってあげてねぇ』 「あはは、瀬山さん、確かに厳しかった。訓練中は鬼師匠でしたもん。でもね、嫌いになんかならないです。愛情いっぱい感じました。昨日は瀬山さんに再構築を教えてもらったんです。成功率は……正直半々です。毎回うまくはいかない。でも、まったく出来なかったのが一夜漬けでここまで出来るようになったんです。それもこれも、覚えの悪い僕に根気強く教えてくれた師匠のおかげ。感謝してます。僕、瀬山さんが大好きです」 や……うん、本当に大好きだ。 優しくて強くて愛情深くてココロが広い。 そうなのよね……訓練があまりにハードでテンパってた僕は、途中から大師匠に向かってほぼほぼタメ口だったんだ。 なのに怒りもせず『親しくなれた印みたいで嬉しいよ』なんて許してくれたの……寛大……マジ寛大でありがたい。 『…………そう、大好きなの。ありがとうねぇ。瀬山さんは私の先生であり、大切な友人だ。そして岡村君は私の大事な子供。大好きな二人が仲良くしてくれるなんて、年寄りは泣きそうですよ』 そう言った先代は、切れ長の目にいっぱいの涙を浮かべていた。 「やだな、今の先代が”年寄りは……”なんて言ったら変ですよ。こんなに若い姿なのに」 『うふふ、視てくれが若くなっても、中身はいつものお爺さんですよ』 「かもしれませんねぇ。僕はどっちの先代でも、先代のままだったら大好きです」 キャッキャウフフと男二人で和気あいあい。 楽しいなぁなんて思っていたその時、 ____くだらねぇ、 吐き捨てるような、人を馬鹿にするような、聞いただけで不快になるような、そんな声がしたんだ。
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