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『はぁ……まったく、いつの話をしてるんですか。そんな大昔のコト、忘れてしまいましたよ。大体ね、ずっと恨みに持つくらいなら、あの当時に直接私に文句を言えば良かったでしょうよ』
三度目のため息と共に独り言ちた先代は、やはり振り返る事はしなかった。
が、僅かに顎を後方に、流し目で気配を探っているように視えた。
「声の悪霊……先代のお知り合いですか?」
昨日瀬山さんが話してくれた。
____平ちゃんだけだった、私に話しかけてくれたのは
____皆はそれに驚いて、
____中には「奴と関りを持てば立場が悪くなるぞ」と忠告する者もいた
そうだ、先代は忠告されたんだ。
だけどみんながいる前で、"強い霊力持っていない奴は話しかけるな"と……忠告した霊媒師本人に言っちゃったんだよ。
『知り合い、そうですねぇ……知り合い、なのかな?』
先代が、自信なさげに答えた瞬間。
叫び声は絶叫へと変わった。
”馬鹿にするな”、”俺を忘れたのか”、”お前は昔からそうだった”、おそらくそういった事を言っているのだろう。
あまりに興奮しているせいか、言葉は言葉になっていない。
それにしても……恨み辛みの絶叫に頭が痛くなってくる。
いい加減にしてほしい、少しでいいから静かにしてくれ、と願った時だった。
不意に僕の願いは叶えられたんだ。
____見苦しい……静かにせんか、
絶叫とは違う、落ち着いた低い声がした。
誰だ? と結界を凝視したその時。
ドンッ、
小さな鈍い音がして、霧の壁から一人の男がよろけるように飛び出した。
同時、
ギャァァァァァァァァァァァァッッッ!!
断末魔が響き渡る。
僕の目の前、飛び出した男は霧となって飛散した。
……
…………な、何が起きた?
飛散した男は多分、絶叫の男と同一だろう。
この結界をくぐり通れば、悪しき者は浄化されて飛散する。
男はそれを知っていたから、先代に”結界を解け”と怒鳴っていたんだ。
なのに飛び出してきた。
きっと男の意志じゃない、突き飛ばされたんだ。
向こう側にいる別の悪霊に……ひどいな、仲間じゃないのか……?
男が出てくる前、男の騒々しさを諫める者がいた。
しわがれた低い声……その悪霊がやったのか?
僕が悶々と考え込んでいると、後ろから声がしたんだ。
『…………ま、……相も変わらずだ、』
瀬山さんだ。
なんて言ったんだ?
声が小さくてよく聞こえなかった。
なんて言ったか聞こうと思って、瀬山さんに声を掛けようとした。
けど、その前に先代に呼び止められたんだ。
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