第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

80/267
前へ
/2550ページ
次へ
『はぁ……まったく、いつの話をしてるんですか。そんな大昔のコト、忘れてしまいましたよ。大体ね、ずっと恨みに持つくらいなら、あの当時に直接私に文句を言えば良かったでしょうよ』 三度目のため息と共に独り言ちた先代は、やはり振り返る事はしなかった。 が、僅かに顎を後方に、流し目で気配を探っているように視えた。 「声の悪霊(ひと)……先代のお知り合いですか?」 昨日瀬山さんが話してくれた。 ____平ちゃんだけだった、私に話しかけてくれたのは ____皆はそれに驚いて、 ____中には「奴と関りを持てば立場が悪くなるぞ」と忠告する者もいた そうだ、先代は忠告されたんだ。 だけどみんながいる前で、"強い霊力(ちから)持っていない奴は話しかけるな"と……忠告した霊媒師本人に言っちゃったんだよ。 『知り合い、そうですねぇ……知り合い、なのかな?』 先代が、自信なさげに答えた瞬間。 叫び声は絶叫へと変わった。 ”馬鹿にするな”、”俺を忘れたのか”、”お前は昔からそうだった”、おそらくそういった事を言っているのだろう。 あまりに興奮しているせいか、言葉は言葉になっていない。 それにしても……恨み辛みの絶叫に頭が痛くなってくる。 いい加減にしてほしい、少しでいいから静かにしてくれ、と願った時だった。 不意に僕の願いは叶えられたんだ。 ____見苦しい……静かにせんか、 絶叫とは違う、落ち着いた低い声がした。 誰だ? と結界を凝視したその時。 ドンッ、 小さな鈍い音がして、霧の壁から一人の男がよろけるように飛び出した。 同時、 ギャァァァァァァァァァァァァッッッ!! 断末魔が響き渡る。 僕の目の前、飛び出した男は霧となって飛散した。 …… …………な、何が起きた? 飛散した男は多分、絶叫の男と同一だろう。 この結界をくぐり通れば、悪しき者は浄化されて飛散する。 男はそれを知っていたから、先代に”結界を解け”と怒鳴っていたんだ。 なのに飛び出してきた。 きっと男の意志じゃない、突き飛ばされたんだ。 向こう側にいる別の悪霊に……ひどいな、仲間じゃないのか……? 男が出てくる前、男の騒々しさを諫める者がいた。 しわがれた低い声……その悪霊(ひと)がやったのか? 僕が悶々と考え込んでいると、後ろから声がしたんだ。 『…………ま、……相も変わらずだ、』 瀬山さんだ。 なんて言ったんだ? 声が小さくてよく聞こえなかった。 なんて言ったか聞こうと思って、瀬山さんに声を掛けようとした。 けど、その前に先代に呼び止められたんだ。
/2550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2366人が本棚に入れています
本棚に追加