第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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霧の晴れた果てない大地。 そこに立つたくさんの男達。 ちゃんと数えてはないけど、ぱっと視、30人はいそうな感じだ。 ここにいる全員が、先代や瀬山さん程じゃないにしても、レベルの高い瀬山の霊媒師達なのだ。 そう、少なくとも僕より手練れに違いない。 マジか……悪霊達を全員祓え、これが今回の修行だけども、正直僕はただの悪霊だと思ってたんだ。 マジョリカさんの現場にいたような、人相と口の悪い、ごくごく普通の悪霊達だとね。 予想は見事に外れた。 こんなの聞いてない。 てか瀬山さん、昨日のうちに言ってくれたら良かったのに。 そしたらさ、それなりの覚悟も出来たんだ。 クソッ……この修行、あまりにハードじゃないか? ____我々昭和初期生まれの人間は、 ____無理してナンボの根性論者、 ____若い子には申し訳ないけど、 ____今回年寄りのやり方に合わせてちょうだい、 先代はこう言っていた。 うん……言ってたな。 てか……てか……昭和、(つえ)ぇぇぇぇぇ! 平成生まれのこの僕は、ついていけるか今更ながら不安です。 本音は怖くてたまらない。 瀬山の霊媒師達は目立って話す者はいなかった。 能面か不機嫌か。 そのどちらかの表情で、先代と瀬山さんを交互に視てる。 …… …………と、思ったけど……ん?  ごくごく小さな声だけど、この人達、何か言ってるみたいだ。 布を擦るような小さな声が微かに漂ってくる。 何を言ってる……? 気になって耳を澄ましてよく聞くと、 もちまる……もち丸……持丸…… これは先代の名前だ。 なんだよ視たまんまのコト言ってるのか。 ひねりがないな。 他にも何か言っている。 僕は更に耳を澄まして聞いたんだ。 じゅう……ジュウ……シンジュ……しんじゅう…… 最初は……なんの事だかわからなくって考えたんだ。 しんじゅ……真珠……? 瀬山さんが霊力(ちから)を使う時、固定カラーは優しい真珠の色だ。 その事を言ってるのか? でも……なんか違う。 もっと嫌な感じがする。 小馬鹿にしたような、蔑むような、負の感情が伝わってくる。 そう思って考えて、小さな声を繰り返し聞くうちに分かってしまった。 コイツら……”心中”って言ってるんだ……! それって瀬山さんの事か? 瀬山さんの過去の事を言ってるのか? 名前ですら呼ばないのか? 腹の底にズシリと重たい物が溜まる感じがした。 なんだよこれ。 瀬山の霊媒師達は無表情から一変、”心中”と呟きながら微かに口を歪めてる。 コイツら……さっきまで無表情だったクセに……笑ってるんだ。
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