第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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怒りで頭が沸騰する、 その勢いで利き手の五指を男に向けた、 真っ赤な電気が火花を散らし、 僕の視界も赤くする、 「僕はあなたを許さない、」 指先が一層光り、今まさに放とうとした時。 僕を呼ぶ声がしたんだ。 『岡村君、』 『岡村さん』 『うなぁぁぁっ』 重なる声に我に返る、が、怒りはおさまらない。 五指の霊矢はそのままに、僕はただ耳だけを向けていた。 『一度落ち着きなさい』 そう言ったのは先代だ。 いつもと変わらない、優しくてゆっくりとした話し方。 『……キミは怒っているんだよね。ショウちゃんを悪く言うこの人達に。ありがとうねぇ。でもね、どんなに腹が立っても怒りに呑まれたらいけないよ。呑まれれば冷静でなくなる。冷静でなくなれば視界が狭くなる。周りが視えなくなるんだ。それがどんなに危険な事かわかるかい? ほら、あすこを視てごらん。瀬山の霊媒師がキミを狙って霊力(ちから)を使うつもりだよ。あっちも、そっちも。岡村君が霊矢を放ったと同時、四方八方攻撃される。うん、そうだ、気付いてなかっただろう? だからね、怒りに……いや、感情に呑まれたらダメなんだ。キミを、キミと組む仲間を危険にさらすからね』 先代は、小さめだけどゴツイ手で、霊矢ごと僕の手を握った。 その手はとても冷たくて、僕の気持ちを落ち着かせる。 『岡村さん……ごめんね。嫌な思いをさせちゃった』 困った顔で僕を視るのは瀬山さんだ。 眉を下げて、白い肌がほんのりと赤くなる。 『あのね、大丈夫だよ。こんなの慣れてる。……ショウちゃんから聞いてるよね。彼らの言った通りなんだよ。私が二十歳(はたち)の時、愛する女性と黄泉の国へ逝こうとしたんだ。現世ではどうしても一緒にはなれなくて、二人添い遂げるにはそれしか方法がなかったの。だけど……私だけ助かってしまった。彼女だけを逝かせてしまった。私はその時死ねなかったけど、心中したのは事実だから、ああ言われても仕方がないんだ。大丈夫、あれくらい気にもならないよ』
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