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そう言って笑った顔は、慣れてる顔じゃあなかった。
長年の諦めと惰性が視てとれる。
『ああもう、そんな顔しないの。大丈夫だって言ったでしょう? それよりも平ちゃんが言った事、よく頭に入れておいてね。現場で冷静さを失ったらダメだ。祓えるものも祓えなくなる。霊媒師というものは常に冷静でいなくてはならない』
淋し気な笑顔から、師匠の顔にシフトする。
僕は少しだけホッとして、ものはついでに師匠に文句をつけてみたんだ。
「ん……冷静でなくちゃダメって、それはわかるけど、反省するけど、でも瀬山さん、だったら昨日のうちになんで教えてくれなかったの? 悪霊のみなさんが瀬山の霊媒師達だって。僕、ココに来てそれ知ってめっちゃ驚いたんだから。しかも全員揃って瀬山さんを悪く言う。冷静でなんかいられないよ」
『ふふふ、ごめんね。瀬山の霊媒師達が相手だと言わなかったのは、これも修行のひとつだからだよ。依頼内容と現場の状況が全然違うなんてよくある事。その中で自分がどう動くか、どう軌道修正するか、その場で考え判断しなくてならない。この先、きっと同じような事がある。その為の練習だよ』
「むぅ……そう言われるとなんにも言えない」
うっかりまた出たタメ口に、気にする様子のない瀬山さんと笑い合っていた。
それを視た先代は、
『随分仲良くなっちゃって』
とホクホク顔だ。
一方、瀬山の霊媒師達は、僕達男三人に四方八方黒い霊矢を放っていたのだが……
虎の子サイズに変化した猫又が、オモチャにじゃれるがごとく片っ端から叩き落していた。
てか大福、スゴイな。
それを視た僕達は、驚いて感心し、そしてまた笑い合った。
気持ちが軽くなっていく。
さっきまで黒い怒りでいっぱいだったはずなのに、僕の心は徐々に落ち着きを取り戻していた。
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