第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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「先代、瀬山さん、ごめんなさい。もう落ち着きましたから」 かぁっと頭に血が上り、怒りに任せて霊矢を撃った。 そのせいで周りが視えていなかった。 あんまり、ないんだけどな……こういうの。 超平和主義なのに、喧嘩も当然好きじゃないのに。 なのに我を失ったのは、瀬山さんと僕が重なってしまったからだと思うんだ。 瀬山さんと僕は良くも悪くも希少の子。 違うのは生まれた場所と時代だ。 霊力のレの字もない平凡な家庭に生まれ育った僕は、自分にそんな霊力(ちから)がある事も知らず、家族や友人と笑い合って生きてきた。 行きたい学校に行かせてもらい、アルバイトをし、好きな女の子と付き合ったりもした。 だけど瀬山さんは? 霊媒一族に生まれ、自由もなく、人生を消費され、好きな女性と引き離されて、霊力(ちから)だけはあてにされるも扱いはあんなにも酷い。 …………もしもだよ? 瀬山さんと僕が逆だったら? 僕が先に瀬山の家に生まれていたら、僕が瀬山さんの立場になっていた。 そう思うと他人事には思えなくって、酷い事、自分がされたみたいに感じて、辛くて悲しくて悔しくてたまらなかった……んだけど、はぁぁ……それにしたって感情的になりすぎた。 いきなり霊矢を撃つなんて、もう僕、水渦(みうず)さんに偉そうなコト言えないよ。 『ふふ、ちょっとビックリしましたよ。でもね、あれくらいの気迫がないと勝てない現場もありますから。ただ冷静さだけは失わない事です。自慢じゃないが現場の私はいつだって冷静でした、』 ちょっぴり得意顔の先代。 さすがだ……マジリスペクトっす、と思った僕の横、呆れた顔の瀬山さんがこう言った。 『よく言うよぉ。若い頃の平ちゃん、短気だからすぐに怒って冷静じゃなくなったじゃない。フンガーッって突っ込んでいったクセに』 『だ、だからショウちゃんっ! 私の若い頃の話は内緒でしょー!』 『あっ、そうだった! ご、ごめん、うっかり……』 「え、ちょ、瀬山さん、続き聞きたい。もっとうっかりしちゃってください。 先代の若い頃ってそんなに短気だったの?」 『うん、すごく短気だったよ。さっき平ちゃんが”冷静さを失ったら駄目”って言ったの聞いて笑いそうになったもの』 『いやぁぁぁぁ! やめてぇぇぇぇ! 言わないでぇぇぇ! んもショウちゃん! 黄泉の国に逝ってからすっごくおしゃべりになったよね! 昔はもっと無口だったのに!』 『ふふふ、そうかな。だって黄泉の国(むこう)はすごく楽しくて、佐知子もそばにいてくれる。幸せだからおしゃべりになったのかも』 幸せだからおしゃべりになった、か。 そっか、そうなんだ。 なんだか僕も幸せだ。 それと佐知子さんって、瀬山さんの奥様かな? 後で聞いてみよっと。
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