第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

89/267
前へ
/2550ページ
次へ
「父様!?」 思わず声が出た。 このしわがれた声の主が、瀬山さんの父親だというのか? 瀬山の家の元(おさ)で、息子を息子と思わずに、とことん追い詰めた張本人……瀬山さんの人生を踏みにじった人……なのか? 『…………父様、もう諦めてください。父様も、私も、とうの昔に死んだんだ。父様はもう”瀬山の家”の(おさ)じゃない。”瀬山の家”は千津が継ぎ、その千津が死んだ今、千津の息子が立派に治めています。時代は変わった。老いの死者に出る幕はないのです、』 ____出る幕がないだと? なければ作るまでの事、 確かに、今のままで叶うまい、 だが、そこにあるではないか、 若く健康な生者の身体が、 強大な希少の霊力(ちから)が、 そう、それ(・・)は私の依り代だ、 最初に、 男の魂を喰らうとしよう、 身体をいただいて、 私が私のまま、 希少の子となるのだ、 そしてもう一度、瀬山の家の(おさ)になる、 千津の息子など……そんなモノは殺してしまえばいい____ なにを……言ってるんだ……? 僕の魂を喰らう? 僕の身体をいただく? 千津さんの息子さんを殺す? 言ってる事がめちゃくちゃだ。 話には聞いていたが、ここまで自分勝手な人なのか。 冗談じゃない、好きにはさせない。 背中に冷たい汗が流れ、僕が身構えていると瀬山さんは悲痛な声を漏らした。 『…………浅ましい』 ____なんだと……? 『……浅ましいと言ったのです、父様。あなたは尽きた命に執着するのですか? 執着のあまり他人の魂を喰らい、身体を乗っ取るつもりなのですか? 千津の息子も殺すつもりなのですか? あの子には……あなたの血も流れているというのに、』 ____だからどうした、 私は私以外の者に興味はない、 興味があるのは私にとって益になるか否か、 それだけだ、 浅ましくて結構、 目の前に生きた希少の子(・・・・・・・)がいるのだ、 それを欲してなにが悪い____ 嘲笑を含む声、そんな事も解らないのかと言いたげだ。 瀬山さんは父親の言葉を聞き、深いため息をついた。 『残念です……生きている間も死んだあとも、私と父様が分かり合える事はないのですね。……これが最後の機会と思っていたのに……本当に残念です。 父様、あなたに岡村さんは絶対に渡しません。あなたが再び”瀬山の(おさ)”になる事はないのです。執着のあまり……今までたくさんの悪行を重ねたのでしょう? 生者にも死者にも。私達が此処に来たのはあなたを止める為だ。これ以上好きにはさせない……! さあ! 潔く、若き生者に滅されてください!』 ____滅されろ……だと? 笑わせるな…… 私は終わらない…… これからだ……まだ間に合う…… 此処に……此処に……私の依り代があるではないか…… 男ぉぉぉぉぉ! お前の身体を寄越せぇぇぇぇ! 希少の霊力(ちから)ごと全て私にぃぃぃぃ! 割れた絶叫が響いたのと同時、 突如現れた首だけの老年が僕を目掛けて飛んできた____だが、悍ましい形相が僕を喰らう事はなかった。 絶叫から半瞬も無い時の中、二人の手練れと一匹の猫又が動いたからだ。 今、僕の目の前には猫又が、その前には先代が、そしてさらに前には瀬山さんの姿がある。 みんな僕を守ろうとしてくれたんだ。
/2550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2367人が本棚に入れています
本棚に追加