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「父様!?」
思わず声が出た。
このしわがれた声の主が、瀬山さんの父親だというのか?
瀬山の家の元長で、息子を息子と思わずに、とことん追い詰めた張本人……瀬山さんの人生を踏みにじった人……なのか?
『…………父様、もう諦めてください。父様も、私も、とうの昔に死んだんだ。父様はもう”瀬山の家”の長じゃない。”瀬山の家”は千津が継ぎ、その千津が死んだ今、千津の息子が立派に治めています。時代は変わった。老いの死者に出る幕はないのです、』
____出る幕がないだと?
なければ作るまでの事、
確かに、今のままで叶うまい、
だが、そこにあるではないか、
若く健康な生者の身体が、
強大な希少の霊力が、
そう、それは私の依り代だ、
最初に、
男の魂を喰らうとしよう、
身体をいただいて、
私が私のまま、
希少の子となるのだ、
そしてもう一度、瀬山の家の長になる、
千津の息子など……そんなモノは殺してしまえばいい____
なにを……言ってるんだ……?
僕の魂を喰らう?
僕の身体をいただく?
千津さんの息子さんを殺す?
言ってる事がめちゃくちゃだ。
話には聞いていたが、ここまで自分勝手な人なのか。
冗談じゃない、好きにはさせない。
背中に冷たい汗が流れ、僕が身構えていると瀬山さんは悲痛な声を漏らした。
『…………浅ましい』
____なんだと……?
『……浅ましいと言ったのです、父様。あなたは尽きた命に執着するのですか? 執着のあまり他人の魂を喰らい、身体を乗っ取るつもりなのですか? 千津の息子も殺すつもりなのですか? あの子には……あなたの血も流れているというのに、』
____だからどうした、
私は私以外の者に興味はない、
興味があるのは私にとって益になるか否か、
それだけだ、
浅ましくて結構、
目の前に生きた希少の子がいるのだ、
それを欲してなにが悪い____
嘲笑を含む声、そんな事も解らないのかと言いたげだ。
瀬山さんは父親の言葉を聞き、深いため息をついた。
『残念です……生きている間も死んだあとも、私と父様が分かり合える事はないのですね。……これが最後の機会と思っていたのに……本当に残念です。
父様、あなたに岡村さんは絶対に渡しません。あなたが再び”瀬山の長”になる事はないのです。執着のあまり……今までたくさんの悪行を重ねたのでしょう? 生者にも死者にも。私達が此処に来たのはあなたを止める為だ。これ以上好きにはさせない……! さあ! 潔く、若き生者に滅されてください!』
____滅されろ……だと?
笑わせるな……
私は終わらない……
これからだ……まだ間に合う……
此処に……此処に……私の依り代があるではないか……
男ぉぉぉぉぉ!
お前の身体を寄越せぇぇぇぇ!
希少の霊力ごと全て私にぃぃぃぃ!
割れた絶叫が響いたのと同時、
突如現れた首だけの老年が僕を目掛けて飛んできた____だが、悍ましい形相が僕を喰らう事はなかった。
絶叫から半瞬も無い時の中、二人の手練れと一匹の猫又が動いたからだ。
今、僕の目の前には猫又が、その前には先代が、そしてさらに前には瀬山さんの姿がある。
みんな僕を守ろうとしてくれたんだ。
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