第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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鉄壁の三者に守られた僕は、瀬山さんの声を後ろから聞いていた。 『父様……首から下はもう無くなってしまったのですね。あなたが亡くなったのは半世紀も昔だ。さすがに……もう持たなくなっていたのか。だから昨日も姿を隠していたんだ、』 ____隠していたのではない、 視せる必要がなかったからだ、 お前は……黄泉の国に逝ったから、 そうやって霊体(からだ)を保っていられるのか、 しかも若さまで取り戻して……なんと腹立たしい事よ、 彰司………………なんだその目は、 同情しているのか? いらぬ、 お前はなにもわかっていない、 私は瀬山の(おさ)なのだ、 霊力(ちから)の使い方、駒の使い方はよくわかっている、 凡庸な霊ならば……首だけとはいえ現世に五十年も在り続けるなど不可能だ、 だが私なら出来る____ 負け押しみにしては堂々としすぎてる、そんな口調でそう言った後、弛んだ瞼に沢山の皺を乗せる目がギョロリと横を視た。 そして瞬きを四つ。 なんだ……? 何をした……? 僕の疑問はさっきの、瀬山さんを”心中”と呼んだ男の叫びによって中断され、また、その叫びによって解明したんだ。 『……あ……あ……あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!! (おさ)っ! (おさ)待ってください! わ、私は、私はずっと(おさ)に仕えてきたじゃありませんかぁぁぁ!! 私を使うのですか(・・・・・・)!? 私を喰らうのですか!? 待って待ってお願いですやめて許して消えたくな、』   大福と、先代と、瀬山さん。 三者の背中が邪魔をして、すべてが視えたのではないけれど、瀬山さんを悪く言った霊媒師は、埃が掃除機に吸われるように、首だけの老年の口に消えた。 喰ったのか……? 仲間とまでいかなくとも、部下じゃないのか? それをこの(ひと)は喰らってしまったのだ。 ____どうせ、こやつの肩は射抜かれてまともには動かせん、 おいていても役に立たぬ、 ならば私の霊体(からだ)となって貢献しろ、 私の役に立つのだから嬉しかろう____ ニィッと笑った顔の下、先程までは無かった霊体(からだ)が構築されていた。 この人……今までもこうやって、仲間を喰らって霊体(からだ)を維持してきたんだ。 酷いな……本気で自分の事しか考えてないよ。 自分が一番大事で、他の誰も大事じゃない。 そうだよな、実の息子でさえ大事じゃないんだ、他人などどうだっていいのだろう。 という事は……僕の魂を喰らい、身体を乗っ取るというのも本気で言ってるのだな。 冗談じゃない、身体を乗っ取られるのはユリちゃんのお爺さんの時で凝りている。 二度とごめんだ。 『父様……あなたの心は人でなくなってしまった、』 小さな声は悲しみを湛えていた、が、大きな声がそれを掻き消した。 『さあ、お前達。日頃の鍛錬の成果を視せてもらおうか。彰司と持丸、それから三尾の猫又を滅するのだ。だが生者の男には手を出してはならぬぞ。そやつは希少の子だ、彰司と同じで霊体に干渉出来るから傷付けぬように。動きを封じるだけに留めろ。わかったらさっさとやれ!』 命令された霊媒師達に緊張が走った。 彼らの立場なら(おさ)(めい)は絶対なのだ。 拒否はもちろん、ヘマをしても喰われてしまう。 自分自身を守る為なのか、忠誠心なのか、殺気立った男達に僕らはグルリと囲まれていた。
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