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鉄壁の三者に守られた僕は、瀬山さんの声を後ろから聞いていた。
『父様……首から下はもう無くなってしまったのですね。あなたが亡くなったのは半世紀も昔だ。さすがに……もう持たなくなっていたのか。だから昨日も姿を隠していたんだ、』
____隠していたのではない、
視せる必要がなかったからだ、
お前は……黄泉の国に逝ったから、
そうやって霊体を保っていられるのか、
しかも若さまで取り戻して……なんと腹立たしい事よ、
彰司………………なんだその目は、
同情しているのか?
いらぬ、
お前はなにもわかっていない、
私は瀬山の長なのだ、
霊力の使い方、駒の使い方はよくわかっている、
凡庸な霊ならば……首だけとはいえ現世に五十年も在り続けるなど不可能だ、
だが私なら出来る____
負け押しみにしては堂々としすぎてる、そんな口調でそう言った後、弛んだ瞼に沢山の皺を乗せる目がギョロリと横を視た。
そして瞬きを四つ。
なんだ……?
何をした……?
僕の疑問はさっきの、瀬山さんを”心中”と呼んだ男の叫びによって中断され、また、その叫びによって解明したんだ。
『……あ……あ……あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!! 長っ! 長待ってください! わ、私は、私はずっと長に仕えてきたじゃありませんかぁぁぁ!! 私を使うのですか!? 私を喰らうのですか!? 待って待ってお願いですやめて許して消えたくな、』
大福と、先代と、瀬山さん。
三者の背中が邪魔をして、すべてが視えたのではないけれど、瀬山さんを悪く言った霊媒師は、埃が掃除機に吸われるように、首だけの老年の口に消えた。
喰ったのか……?
仲間とまでいかなくとも、部下じゃないのか?
それをこの霊は喰らってしまったのだ。
____どうせ、こやつの肩は射抜かれてまともには動かせん、
おいていても役に立たぬ、
ならば私の霊体となって貢献しろ、
私の役に立つのだから嬉しかろう____
ニィッと笑った顔の下、先程までは無かった霊体が構築されていた。
この人……今までもこうやって、仲間を喰らって霊体を維持してきたんだ。
酷いな……本気で自分の事しか考えてないよ。
自分が一番大事で、他の誰も大事じゃない。
そうだよな、実の息子でさえ大事じゃないんだ、他人などどうだっていいのだろう。
という事は……僕の魂を喰らい、身体を乗っ取るというのも本気で言ってるのだな。
冗談じゃない、身体を乗っ取られるのはユリちゃんのお爺さんの時で凝りている。
二度とごめんだ。
『父様……あなたの心は人でなくなってしまった、』
小さな声は悲しみを湛えていた、が、大きな声がそれを掻き消した。
『さあ、お前達。日頃の鍛錬の成果を視せてもらおうか。彰司と持丸、それから三尾の猫又を滅するのだ。だが生者の男には手を出してはならぬぞ。そやつは希少の子だ、彰司と同じで霊体に干渉出来るから傷付けぬように。動きを封じるだけに留めろ。わかったらさっさとやれ!』
命令された霊媒師達に緊張が走った。
彼らの立場なら長の命は絶対なのだ。
拒否はもちろん、ヘマをしても喰われてしまう。
自分自身を守る為なのか、忠誠心なのか、殺気立った男達に僕らはグルリと囲まれていた。
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