第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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『…………ん、そっか、そう思うか。ならこう考えてみて。滅するんじゃなく、解放するって、』 そう言って瀬山さんは少し淋しく笑った。 「解放?」 『そう、解放だ。彼らはね、時期は違えど父に強制的に集められたんだ。亡くなってから連れてこられた者、生きている時に目を付けられ殺されて連れてこられた者、様々いるが自分の意思で父に仕えてる者はいない。父は霊力(ちから)が強く、逆らえば喰われてしまう。従わない訳にはいかなかったんだ』 「そんな……本人の意思は無視なのか? ……酷いな」 『ん、酷いよね。集められた者達は生きていた頃以上の修行を課せられた。そして本人の意思に関わらず生者を襲わせ、そして私を憎むように洗脳されたんだ。……さっき、彼らは私を”心中”と呼んで嘲笑ったが、あの中に心中の事を実際に知ってる者は半分もいない。当時の事を霊視させ、いかに私が害を成す者かと長年に渡り摺り込んだ。共通の敵を作り和を保つ、古いやり方だね。だが効果はあったんだ。こんな所で苦行のような毎日を送らされ、家族も恋人もいない、心を癒すものはなにもない。その鬱憤は私への侮蔑と憎しみ、それから幸せな生者を壊す事に向けられる。粗相をすればいつ喰われるか分からない(おさ)の元、身を守るには忠誠を誓うしかなかった。ねぇ、岡村さん。そんな彼らは幸せだと思うかい?』 僕は言葉が出なかった。 瀬山さんの質問にブンブンと首を振る。 『……そう思うなら、彼らを可哀そうだと思うなら、解放してやってくれないか? 彼らは悪事を重ねすぎた。黄泉の国へは逝けないから【闇の道】を渡らされ地獄に逝く事になるだろう。それが相応の報いだとは思うのだけど、それじゃああまりに可哀そうだ。父がさらって来なければ、そのまま黄泉の国に逝けた者もいたというのに、』 そこまで言うと瀬山さんは、真剣な目で僕を視た。 長年嫌な思いをしてきただろうに、ましてや、直接自分を知らない者まで”心中”と嘲笑い、ガチギレしたって誰も責めやしないのに、それでもこの人は怒るのではなく、彼らの解放を願うのだな。 「……わかりました。あの人達を解放する為、出来る限り霊力(ちから)を尽くします。もう大丈夫です、瀬山さん、先代、後ろに下がっていてください。なるべく頼らなくて良いように頑張ります。それから大福、駄目と言っても来ちゃうんでしょ? それなら一緒に頑張ろう。そのかわり、本当に危なくなったら僕の事は放って逃げるんだ。いいね?」 愛しい猫又にそう言うと、おっきなお顔を(や、虎サイズだし)横に縦にバラバラに、めちゃくちゃに振り始めた。 ははぁん、コレ返事をしてると見せかけて、首を縦に振ってるのか横に振ってるのか分からないようにしてるんだな。 まったく困った猫又だ。 可愛くて強くて優しくて、僕に甘い。 だけど心強い。 僕は一人じゃないんだな。 大福、一緒に頑張ろう。 この人達を解放するんだ。
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