第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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◆ 先代と瀬山さんが円陣から抜け、少し離れた外側に移動した。 それを視た瀬山さんの父親……いや、(おさ)は(あんな人を瀬山さんの父親と呼びたくない)、眉を寄せて何かを言いかけたが、結局何も言わなかった。 僕を拘束するにあたり、どんな理由であれ手練れ二人が抜けた方が良いと思ったのだろう。 二人がいたら部下達は瞬滅される、手駒が減ってしまう。 残った円の真ん中は、まるで特等席だった。 霊矢、霊刀、苦内(くない)、薙刀に鎖鎌、あらゆる武器がココからだとよく視える。 よく視えるのは武器だけじゃない、それを持ってる男達もだ。 瀬山さんが話してくれた事、それは当然、男達にも聞こえていたはずなんだ。 それを聞いてどう思ったのだろう? 能面からは視てとれない。 何も響いていないのか、それとも(おさ)の目を気にしているのか。 計り知れない……だけど、僕は瀬山さんと約束したんだ、彼らを解放するって。 だから、僕はこれから彼らを滅する。 たとえ、僕の目に映る姿が生者とまるで変らなくとも、その霊体(からだ)に霊矢を撃たなくちゃいけないんだ。 正直……辛い。 だからその前に少しだけ、僕に話をさせてもらえないかって思ったんだ。 「あの……みなさんは僕を拘束して、(おさ)に差し出さなくちゃいけないんですよね、しかも無傷で。なのに僕は拘束される気なんて全然なくて、当然抵抗するし、……それどころかあなた方を滅しようと思っています、」 突然喋り出した僕に、男達は眉を寄せてザワザワし始めた。 はは、そりゃそうか。 これからドンパチかと思わせといて『何言ってんだ、コイツ』って思ってるんだろうな。 すいません、もうちょっとだけ聞いてほしい。 「僕、昔、通信会社にいたんです。そこでは営業とクレーム処理をしてました。あの頃は大変だった。お客様から責められ、上司からも責められ、胃薬ばっかり飲んでたんです。その頃の上司って、あんまり良い人じゃなかった。自分の出世の事しか考えてなくて、部下は使い捨ての駒くらいにしか思ってない。出してくる命令も無茶ばかり。部下の手柄は取り上げるのに、自分のミスは部下に押し付ける。ハッキリ言って最低です。心の中ではぶん殴ってやりたかった。命令なんか聞かないで辞表を叩き付けたかった。でも、怖くてそんな事出来なかったんだけどね」 ありゃりゃ。 殺気立ってた男達が揃いも揃ってポカン顔だ。 でもいいの、しゃべっちゃう。 「会社は最終的に倒産しちゃって、僕は思いがけず自由になりました。その代わり無職無収入になったけど気持ちは軽かった、だって解放されたんだもの。 …………あーっと、ごめんなさい。僕の話、(おさ)バリに長いですよね。結局なにが言いたいかっていうと、あなた方は”自分の意思で”僕を拘束したいんですか? 無傷で拘束しろだの、その他は滅しろだの、注文色々つけられて。失敗すれば喰われて消され、成功したって(おさ)の気分次第でいつ消されるかわからない、」 男達はますます困惑し、『なにが言いたいんだ!』と声を上げる者もいた。 眉を寄せ、怒った顔やら動揺顔やらいろいろで、能面はもう一人もいない。 「えっと、長くなりましたがこれで最後です。 僕の名前は岡村英海、30才独身、株式会社おくりびの新人霊媒師。 これからあなた方を滅し、(おさ)から、現世から解放します。 こんな言い方おかしいかもしれないけど、心を込めて滅するつもりです。 変な話もしましたが、考えてほしかった。(おさ)の駒のまま最期を迎えるんじゃなく、自由な一個人として最期を迎えてほしいんです」
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