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先代と瀬山さんが円陣から抜け、少し離れた外側に移動した。
それを視た瀬山さんの父親……いや、長は(あんな人を瀬山さんの父親と呼びたくない)、眉を寄せて何かを言いかけたが、結局何も言わなかった。
僕を拘束するにあたり、どんな理由であれ手練れ二人が抜けた方が良いと思ったのだろう。
二人がいたら部下達は瞬滅される、手駒が減ってしまう。
残った円の真ん中は、まるで特等席だった。
霊矢、霊刀、苦内、薙刀に鎖鎌、あらゆる武器がココからだとよく視える。
よく視えるのは武器だけじゃない、それを持ってる男達もだ。
瀬山さんが話してくれた事、それは当然、男達にも聞こえていたはずなんだ。
それを聞いてどう思ったのだろう?
能面からは視てとれない。
何も響いていないのか、それとも長の目を気にしているのか。
計り知れない……だけど、僕は瀬山さんと約束したんだ、彼らを解放するって。
だから、僕はこれから彼らを滅する。
たとえ、僕の目に映る姿が生者とまるで変らなくとも、その霊体に霊矢を撃たなくちゃいけないんだ。
正直……辛い。
だからその前に少しだけ、僕に話をさせてもらえないかって思ったんだ。
「あの……みなさんは僕を拘束して、長に差し出さなくちゃいけないんですよね、しかも無傷で。なのに僕は拘束される気なんて全然なくて、当然抵抗するし、……それどころかあなた方を滅しようと思っています、」
突然喋り出した僕に、男達は眉を寄せてザワザワし始めた。
はは、そりゃそうか。
これからドンパチかと思わせといて『何言ってんだ、コイツ』って思ってるんだろうな。
すいません、もうちょっとだけ聞いてほしい。
「僕、昔、通信会社にいたんです。そこでは営業とクレーム処理をしてました。あの頃は大変だった。お客様から責められ、上司からも責められ、胃薬ばっかり飲んでたんです。その頃の上司って、あんまり良い人じゃなかった。自分の出世の事しか考えてなくて、部下は使い捨ての駒くらいにしか思ってない。出してくる命令も無茶ばかり。部下の手柄は取り上げるのに、自分のミスは部下に押し付ける。ハッキリ言って最低です。心の中ではぶん殴ってやりたかった。命令なんか聞かないで辞表を叩き付けたかった。でも、怖くてそんな事出来なかったんだけどね」
ありゃりゃ。
殺気立ってた男達が揃いも揃ってポカン顔だ。
でもいいの、しゃべっちゃう。
「会社は最終的に倒産しちゃって、僕は思いがけず自由になりました。その代わり無職無収入になったけど気持ちは軽かった、だって解放されたんだもの。
…………あーっと、ごめんなさい。僕の話、長バリに長いですよね。結局なにが言いたいかっていうと、あなた方は”自分の意思で”僕を拘束したいんですか? 無傷で拘束しろだの、その他は滅しろだの、注文色々つけられて。失敗すれば喰われて消され、成功したって長の気分次第でいつ消されるかわからない、」
男達はますます困惑し、『なにが言いたいんだ!』と声を上げる者もいた。
眉を寄せ、怒った顔やら動揺顔やらいろいろで、能面はもう一人もいない。
「えっと、長くなりましたがこれで最後です。
僕の名前は岡村英海、30才独身、株式会社おくりびの新人霊媒師。
これからあなた方を滅し、長から、現世から解放します。
こんな言い方おかしいかもしれないけど、心を込めて滅するつもりです。
変な話もしましたが、考えてほしかった。長の駒のまま最期を迎えるんじゃなく、自由な一個人として最期を迎えてほしいんです」
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