第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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◆ グルリと360度。 手練れの男達に囲まれて、僕と大福に退路はない。 その真ん中で僕は、手練れの中でも一番若そうな男……いや、少年と呼んでもおかしくない子と一対一で、霊力(ちから)をぶつけ合っていた。 僕を一斉に捕まえに来ると思っていたのに…… だが彼らは『俺にやらせろ』と一番乗りで前に出た少年と僕のタイマン(・・・・)の邪魔をする事はしなかった。 もしかして……瀬山さんと僕の話を聞いたあと、なにか気持ちに変化があったのかもしれない。 本当のところはわからないけど、彼らは今、能面でなく、嘲笑う態度でもなく、ただただ僕と少年を真剣なまなざしで視つめていた。 「そうですか! あなたは殺されてからココに連れてこられたんですね!」 聞きながら、話ながら、僕は利き手の五本の指から真っ赤に光る霊矢を撃った____のだが、なんたって当たらない。 五本の霊矢を余裕でかわす少年が、僕に向かって苦内(くない)を投げつつ身の上を語ってくれた。 『そうだ! ウチは母ちゃんと妹と俺の三人家族でさ! 女の細腕で俺を高校まで出してくれたんだ! 当時妹はまだ小学生で金がかかる! だから俺! 高校出て! 地元で有名な”瀬山”に世話になる事にしたんだ! 昔から幽霊視えたし、なんたって給料が良かったからな!』 話してみると言葉は随分と幼かった。 無表情から一変、そこに感情がのるだけで、僕の目にはごくごく普通の若者に視えた。 ビュンッ! ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!  若いけど腕は一流。 鋭利な苦内(くない)を頭を抱えて避けた僕は、懲りずに霊矢を撃ち返しながら話の続きを聞いた。 『修行は厳しかったけど! これで母ちゃんと妹を食わせてやれる! そう思って毎日頑張った! だけど……クソッ! 10年前のある日突然、(おさ)が来たんだ! 「おまえは見込みがあるから私に仕えろ」って! それで俺は殺されて無理やり此処にこさせられたんだ!』 春生まれの彼は享年17才だったそうだ。 大事な家族の為、若いながらも一家の大黒柱になる為に、厳しい修行に明け暮れていた矢先、(おさ)に殺されさらわれた。 訳がわからなかった。 自分を殺した男は瀬山の(おさ)だと名乗るけど、(おさ)は生者でもっと若い。 自分の知ってる(おさ)とは違う、そう言うと、血相を変えた取り巻きが飛んできて、押さえつけられ手の爪をはがされた。 彼は痛みに絶叫した、……が、それでも、その時は(・・・・)まだ心は折れなかったそうだ。 心が折れたのは、それから少ししてからだった。 いきなり現れた”元瀬山の(おさ)”に殺されて、最後に母と妹の顔さえ視る事も許されず、生きていた頃以上に修行を課され、そして生者を襲うように言われ……彼は耳を疑った。 当然首は縦に振らない、至極当然反論した。
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