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なぜ修行をしなくてはならないんだ。
給料も出ないのに、出なければ家族を養う事も出来ないのに。
生者を襲えというのもそうだ。
なぜ罪のない知らない人を襲わなくてはならないのだ。
イヤだ、そんな事は絶対したくない____
____そう言ったのに、心は拒絶してたのに。
結局彼は毎日吐くほど修行を重ね、恨みもなにもない生者を襲った。
逆らえなかった。
負けん気なんてへし折れた。
どうして拒否など出来よう。
命令がきけないのなら、母親と妹を殺すと言われたというのに。
これは脅しじゃない。
長がその気になれば、彼がそうされたように、家族はあっけなく殺される。
殺されて黄泉の国に逝けるならまだいい、だがきっと逝かせない。
家族を、優しい母と可愛い妹を、彼の目の前で痛ぶって、終わらない苦しみを与えるに決まってる。
そんな事、絶対にさせる訳にはいかない。
僕は霊矢を、少年は苦内を、激しくやり合いながら話していたのだが……ここまで話した彼の動きが止まった。
『……最初は……家族を人質にとられたから……脅されて……それで仕方なく生者を襲った。でも……でも俺……何年も悪事を重ねるうちに感覚がおかしくなっていったんだ……あんなに嫌だったのに……罪のない生者を襲いたくないって思ってたのに……いつしか……そうじゃなくなった……幸せそうな生者を視ると腹が立った……憎むようになっていた……俺は……俺はさ……こんなに辛いのに……コイツらは生者は能天気に笑ってる、家族がいて、恋人がいて、子供がいて、うまいモノ食って……楽しい事や未来があるんだ……それに比べて俺は……そう思ったら……心は……嫉妬と憎しみでいっぱいになってしまった……それで……生者を襲う事に抵抗がなくなってしまったんだ……俺……俺……』
振り上げた苦内を宙に止めたまま、
力なく項を垂れた少年は、
『どうしてこうなっちゃったんだろう、』
そう言って、
顔をグシャグシャにして、
大声で泣いた。
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