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手にある霊矢をその場に捨てて、僕は大声で泣く少年の背中をさすっていた。
なんて声をかけたら良いのか分からない。
本当はさ、キミは悪くないと言ってあげたい。
だってそうだ、この子は長に殺された。
意思に反して駒にされた。
家族を人質にとられ、報酬もないまま修行を課され、いつ喰われるか分からない恐怖の中、これまでやってきたのだ。
辛かっただろうな、悔しかっただろうな。
だけど……どんな事情があるにせよ、この子に襲われた生者がいる。
ケガをした人、最悪命を落とした人もいるかもしれない。
その人達と、その人達の家族の気持ちを思えば、”長に脅されたなら仕方がないよ”とは……言えない。
襲われた生者もまた、この子と同じように辛くて悔しい思いをしたのだ。
背中をさする事しか出来ないもどかしさの中、少し落ち着いた少年が小さな声でこう言った。
『あったかいなぁ……生者の体温だ……』
俯いた顔は視えないけど、声は穏やかで……そして掠れていた。
『どうしてこんな事になっちゃったんだろう……俺は瀬山で立派な霊媒師になって、うんと稼いで、母ちゃんと妹を守りたかっただけなのに……人を困らせる悪霊を祓って感謝されて……そんな理想を持っていたのに……俺が悪霊になっちゃった、』
震える背中はまるで幼子だ。
少年のまま時を止めたこの彼は、生きていれば27才。
結婚して子供がいたっておかしくない。
そうだ……好きな人が出来て、家族が増えて、賑やかな毎日を送ってたかもしれないのに。
なのにさ、こんな所でさ、こんな風に泣かなくちゃならないなんてさ。
失った命は戻らない。
僕は少年の霊体をギュウッと抱きしめた。
氷のように冷たくて、その冷たさがとてつもなく悲しくて、ダメだと思うのに涙が溢れてとまらなかった。
『いい加減にしないかぁぁぁぁっ!!!』
突然降ってきたしわがれた怒鳴り声。
腕の中の少年はガタガタと霊体を震わせ、身を縮めている。
グルリと立つ男達は圧の声にハッとしたその直後、顔から一切の表情を消した。
『私を失望させるなっ!! 何をグズグズしている!! 早く希少の子を捕らえよ!! 怠けるようなら此処で全員喰らっても良いのだ!! 私に忠誠を誓えぬ者などいいらぬっ!! 喰われたくなければ今すぐ拘束しろっ!!』
…………っ!
勝手な事を……自分が一番偉くて、自分が一番大事なんだな、
あんなのが上司じゃあ部下もおかしくなる……って……え? なに? ……ちょっと待って、
手練れの男達が一斉にこちらを向いた。
表情はなく能面で、みんながみんな同じ動きをしている。
足元に武器を落とし、代わり、自由になった両手を絡め、複雑に印を組み始めたのだ。
何をする気だ……?
それは何の印だ……?
今度は僕に緊張が走る。
不穏な空気に大福が飛んできた。
傍に立って牙を剥き、唸り声を上げている。
ありがとう大福、僕も備えるよ。
いつでも霊矢が撃てるように、立って体勢を整えて……と思ったのに。
動く事が出来なかった。
少年が腕の中で泣いている。
視上げて、縋って、
ゾッとするほどの強い力で、
僕に絡みしがみ付き____
身動きが取れない。
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