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数多の槍がうずたかく、その頂点から僅かな光が差し込むも、あまりに高さがあるせいか地上まで降りてこない。
ゆえに中は真っ暗で、視覚を奪われ不安が高まる。
そんな中、僕に絡む腕が緩んだ。
さっきまで、あんなに必死にしがみ付いていたのに、僕の動きを封じていたのに、そんな事はどうでも良くなったと言わんばかりに、少年はアッサリと霊体を離した。
どうしたんだろう……?
や、けっこう苦しかったし離れてくれてありがたいけど、なぜ急に?
「あの……」
なんて聞こう、なにから聞こう。
離して良かったの?
僕は逃げるかもしれないよ?
今すぐキミを滅するかもしれないよ?
このあたりかな……なんて考えていたら、暗くてよくわからなけど、土を踏む少年の足音が僕から遠ざかる……さっきまでの執着はなんだったんだ。
「あの、」
二度目の”あの”の続き、これを遮る低い声がした。
暗くて顔は視えないけれど少年の声じゃない。
もっと年を重ねた声だ。
『やってしまったな……これでもう後戻りは出来ない、』
ん……?
どういう意味なの?
”やってしまった”と言うのは槍の事?
ぼやきの声が深刻で、訳がわからず頭の中に疑問符を飛ばしていると、今度は背後から声がした。
『ああ……ああ……やってしまった……きっと今頃……長は相当お怒りのはずだ』
少し声が震えてる。
”長はお怒り”?
なんで? そうかな?
長の命通り、僕を拘束したのに?
確かにさ、縄で縛られたんじゃないけど、あなた達を突破して、ココから逃げるのは至難の業だ。
滅するにも、あんな霊力を視せられた後じゃ……正直慎重にならざるを得ない。
身体は自由に動くけど、槍の檻に閉じ込められたんだ(もちろん反撃のチャンスを探るけどさ)。
とりあえずミッションクリアでいいんじゃないの……?
そう僕は思うのに、男達にお祭りムードはない。
『怒らせておけばいい。どうせ何をしたって怒るんだ。心配するだけ無駄というもの、』
『そうだ……そうだ、そうだ、そうだ……もうウンザリだ……長の命を聞くのも、長の顔色を伺うのも、』
『私もだよ……ほとほと疲れた……長の命に背けば喰われ、背かずとも喰われ、長の霊体を造る為に喰われ、仲間が減れば我らにヒトをさらうよう命ずる……こんな事を続けていくのはもう嫌だ』
槍の空間。
明かりのない暗闇の中、”瀬山の手練れ”達は疲労を色濃く見せていた。
一人が言い出した長の不満に、俺も私もと後を絶たない。
僕はなんだか意外だった。
最初の印象と全然違う。
最初はさ、瀬山さんを”心中”と言って嘲笑い、先代にも敵意剥き出しだった。
少なくとも表面上、長の命令を聞いていてたし、多少なりとも忠誠心があるのかと思ってた。
それがなによ、長ってめちゃくちゃ嫌われてる。
長が傍にいない今、言いたい放題愚痴ってる。
ああ……なんだろ、この既視感。
これってまんまサラリーマン時代の僕だ。
あの頃上司は最低で、だけど怖くて前で面と向かって文句は言えず。
同僚達もやっぱり同じで言えなくて、僕達は上司がいない居酒屋で、焼酎片手に愚痴を吐きつつクダを巻いていたんだ(僕は飲めないからウーロン茶で)。
____天に昇りし我らが霊力、槍の豪雨とならんことを、
そう言霊を唱え、天から槍を降らせた手練れ達なのに。
これが瀬山の霊媒師なのか、と驚愕したのに。
こんな所を視てしまうと、妙に人間臭いな、僕に近いのかな、なんて……思ってしまう。
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