第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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バチ……バチバチ…… とりあえず。 放電のお許しが出たので、控えめに放ってみた。 リンゴ大の赤い珠を(電気を丸めて丸くした)テキトウな間隔で地面に置いたのだが……なんだこれ。 淡い光が点々と揺らめいて、怪しい儀式でも始まるのかって雰囲気だ。 でもまぁいいや、これで暗闇から解放されると顔を上げれば、瀬山の手練れ達の全員が僕に注目してるじゃない。 ちょ、ちょっとびっくりした。 これ僕だから良かったけど、(らん)さんなら確実に気絶するからね。 『お前……岡村は霊視が出来ないと言ったが、希少の子で霊視が出来ないなどあり得ない。我々をからかってるつもりか?』 赤い光が下から当たり、より悪霊っぽく視える男が言った。 「あり得ない……ですか。や、あのですね、からかうとか、そんなんじゃないです。霊視が出来ないのは本当です、」 はぁ……何度も言わせないでほしい。 言ってて情けなくなるよ(手練れの前じゃ特にね)。 『それでよく霊媒師が務まるな……だが希少の子の霊力(ちから)は計り知れないと言う。霊視など初歩的な術は、もはや必要無いという事か、』 いえ必要です。 必要に決まってます。 霊視スキルがないがゆえ、(ココ)まで来るのにどんだけ苦労したか…… 『沈黙は肯定、か。……ならば問おう。岡村がヒトやモノを探す時、霊視を使わず代わりに何を使うのだ』 眉間にシワを寄せる男の顔は期待に満ちている、これきっと、僕がスゴイ技を持ってると誤解してる。 うわぁ……答えにくーい。 「何って……えっと……電柱?」 『電柱……?』 「電柱」 僕の答えにクルリと後ろを向いた男は、仲間達とヒソヒソやりだした。 小声のせいで全部は聞こえないけど『本当の事を答える気がないんだ』とか『ごまかし方が下手だ』とか『電柱はないわ』とか部分的に耳に入る。 や、だから本当に出来ないし、むしろ出来る事の方が少ないし……ああもう! 「あの! 僕が希少の子だからってハイスキルと思わないでくださいッ! 今の僕が出来るのは霊矢を撃つ事と癒しの言霊、だけです! なんかすいません!」 これだけ言えば、わかってくれるか。 彼らにとって ”希少の子=瀬山さん” こんなイメージだろうから、同じ希少の子ならスーパーハイスキルくらいに思うのかもしれない。 無理もないけど、僕の出来なさっぷりを見くびらないでほしい。 前職は通信会社のサラリーマンだ、霊媒師のレの字もないまま30年生きてきた。 急に目覚める(霊力(ちから)に)訳がない。 今は日々勉強の毎日で、今日だって修行の為に(ココ)まで来たんだから。 僕のヘタレ発言で空気はグダグダ。 少年の辛い過去に、一緒になって泣いていたのがウソのよう。 男達はザワザワしながら何か話していたんだけど、ふと止まり、そして僕にこう言ったんだ。 『言いにくい事を言わせてしまって悪かった。だが、希少の子なのに何も出来ないんだな。……大丈夫か? それで本当に俺達を解放出来るのか(・・・・・・・)……?』 意外だった、この人達……解放を望んでいるのか。 怖くないのかな、いやじゃないのかな。 それぞれ思う所があるのだろうけど。 その結果、解放が彼らの望みだとしたら。 解放……そうだ。 僕はこの人達を、(おさ)から、現世から、解放すると言ったんだ。 解放と言えば言葉は綺麗だが、それをするには滅さなくてはならない。 …… ………… ……………… 今となって、僕にそれが出来るのだろうか……? 話してみれば人間臭くて、ブラック上司に耐えてきたこの幽霊達を。 上司がいなけりゃ思いっ切り愚痴を言う、サラリーマン時代の僕とよく似ているこの人達を。
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