第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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赤い光に照らされて、瀬山の手練れ達は僕をジッと視つめていた。 言葉はない。 黙ったまま、なんとも言えない表情を向けている。 「…………質問にお答えする前に一つ、先に僕から聞いても良いですか? ……みなさんは、その……なんて言うか……本当に”解放”を望まれるのですか?」 質問に質問で返す。 あんまり好きではないけれど、聞かずにはいられなかった。 最初に会った印象通り、彼らが”確固たる悪霊”のままでいたのなら、こんな事は聞かなかったと思う。 多少の躊躇があったとしても、生者にも死者にも害を成した悪霊なのだと、これ以上罪を重ねさせさせないと、彼らを解放する為に霊矢を放っただろう。 だけど聞いてしまった。 少年が此処に連れてこられた経緯、少年の苦悩、そして手練れ達のあまりに淋しく惨めなぼやき。 サラリーマン時代の僕じゃあるまいし。 あれだけ強大な霊力(ちから)を視せた男達だ。 瀬山の霊媒師軍団の中でもトップレベルの人達なのだろう。 生前は、厳しい現場に先陣切って乗り込んで、悪霊達を一網打尽にしたに違いない。 そう……本来なら、悪霊を祓う側の人間で(・・・・・・・・・・)、祓われる側じゃなかったんだ。 それなのに…… 『その質問の答えは肯定だ。我々は(おさ)から解放される事を強く望む』 そう言ったのは、白髪の髪を後ろで結わき、顔中に深いシワを刻む老年だった。 顔だけ視れば60代とも70代とも思えるが、その霊体(からだ)は鍛えられ、40代と言われても頷いてしまうだろう。 男達の中でも年長と思われる老年は、背筋を伸ばし静かな声でこう続けた。 『我々は来たくて此処に来たんじゃない。生者の頃か死者の頃か、その差はあれど経緯は似たり寄ったりだ。霊力(ちから)のある者、技術のある者、(おさ)に目をつけられた者は有無も言わさずさらわれた。そして悪事の限りを強制された。何百もの生者と死者を襲ったよ。この山もそうだ。此処には立派な道路(みち)があるが、我々が事故を多発させたせいで、今では誰も近寄らない』 ああ……だからか。 山を登った数時間、人はおろか車の一台も通らなかった。 寂れた場所だしたまたまかと思っていたけど……違ったんだな。 『沢山の生者に怪我を負わせた。走る車は大破させたし、人は血だらけ、骨折もさせた。かつてこの山は毎日のように事故が起きてた、大惨事だよ』 酷いな……黄泉の国に逝けないくらいの悪事を重ねてきた、というのはわかっていたけど、具体的に聞かされると胸が苦しくなる。 ましてや少年は言っていた。 生者に対する嫉妬と憎しみで襲う事に抵抗がなくなっていたと。 嬉々として悪事を働いていたかと思うと複雑な心境だ。
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