第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

105/267
前へ
/2550ページ
次へ
少年がボロボロと涙を零し、”悪かった、許してくれ”と微かな声で繰り返す。 それを視た男達は、特別声はかけないものの、少年の肩を叩き背中をさすり、グシャグシャと頭を撫ぜていた。 罪を聞けば悪霊に違いない。 だけど……罪を悔いて泣く少年と、少年を慰める男達。 唇を噛み、肩を震わせ泣いている。 悲しみと後悔と怒り、その全部を混ぜ合わせた色の目は、絶望的な力強さがあった。 『昨日____』 老年が言った。 『昨日、突然彰司さんと持丸が来て……とても驚いたんだ。彰司さんはとうに死に、持丸はまだ生きているかと思ったが……姿を視て死んだのだとわかった。私は数少ない二人を知る者だ。(おさ)の手前、罵倒し侮蔑の言葉を吐いたが本当は眩しかった。私よりも年上のはずなのに、昔のままの若い姿で、”ショウちゃん”、”平ちゃん” と呼び合って、(おさ)に向かって言いたい事を言う。そんな事を言えば喰われてしまうと気を揉んだが、二人が喰われる事はなかった。…………二人は……今でもツーマンセルを組んでいて、協力し合って……大きな……それは見事な結界を構築した……それで我々を閉じ込めたんだ……』 老年はもう涙を隠す事もしなかった。 深いシワをさらに深め、泣きながら興奮した様子で話を続けた。 『昔……私は二人に憧れていたんだ。誰よりも霊力(ちから)を持つ彰司さん、霊力(ちから)は彰司さんには及ばぬものの、やはり霊力(ちから)の強い持丸に、祓えぬ霊はなかった。二人はいつも一緒で、あれだけ霊力(ちから)を持っているのに鼻にかける事もなく、人の百倍努力をしてた。何度現場で助けてもらったかわからない。私もああなりたい、困っている人がいれば依頼者も仲間も生者も死者もみんな私が救うのだ……! ……と努力に努力を重ねてきた。あの頃は本気でそう思っていたんだよ。それなのに……私は恥じた。彰司さんと持丸に今の私を視られたくないと思ったよ』 老年はそこまで言うと、溢れる涙が邪魔をしてそれ以上話せなくなってしまった。 代わり、泣いていた少年が目をゴシゴシと擦り話始めた。 『俺はさ、二人とも直接会った事はない。ただ話は聞いていた。(おさ)が言うには、彰司って人は(おさ)の息子で酷い裏切りをした、持丸って人は霊力(ちから)はあるけど息子の肩を持つ生意気な奴。正直どうでもいいと思ったけど同調しないと喰われてしまう、だから知りもしない二人を悪く言った。言い続けるうちに本当に悪い奴らだと思うようになった。……だけどさ、昨日初めて本物に会って……(おさ)が言うような人じゃないと知ってしまった。……興味が湧いたよ、それでこっそり話をしたんだ。最初は怖かった……だってほら、立派な人みたいだし、悪い事ばかっかりしてきた俺なんか相手にされないか怒られるか、それか……この人達も俺を喰うのかなって。でもさ……二人とも怒らなかった。責めないし馬鹿にしないし、それどころか話をいっぱい聞いてくれて……』 そうか……僕が来る前、そんな事があったんだ。 責めず、馬鹿にせず、ただ話を聞いたんだ。 二人らしいな。
/2550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2366人が本棚に入れています
本棚に追加