第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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少年は微かに笑った。 はにかんだように、嬉しそうに、だけどすぐに淋し気な顔になる。 そんな少年の頭をグシャグシャ撫ぜた別の男も話し始めた。 『三人が話してるのを近くで聞いていた。俺も驚いたんだ。会った事のない彰司さんと持丸さん。聞いていたのと全然違う、過去の二人を霊視しろと言われたが視た事はなかった。(おさ)は二人を悪く言っていれば満足だったから、適当に話を合わせ、わざわざ視る事はしなかった。初めて顔を視て、初めて声を聞いた。二人とも目に濁りがなかった、怒鳴る事もせず穏やかに話してた、』 男の話に区切りがつくと、同時に声が重なった。 『俺も聞いていたぞ、』 『私もだ』 『私も、』 『俺も、』 …… ………… ………………私も聞いていた、 目を腫らした老年が再び声を発した。 そして大きく息を吸うと一気にこう言ったんだ。 『いつぶりだろうか。呪いや脅し以外の言葉を聞いたのは。穏やかに話し、静かに耳を傾ける。まるでまともな人間に対する態度(・・・・・・・・・・・・)で接してくれた。……これがどんなに凄い事がわかるか? 善良な生者なら当たり前の事かもしれない。だがな、我々にとっては当たり前ではないのだ。悪に手を染め心を蝕み、(おさ)からはモノ以下の扱いを受ける……ここまで堕ちた我々を、彰司さんと持丸は人として扱ってくれたんだよ、だから……!  だから覚悟が出来た、これ以上(おさ)の元、罪なき者を襲うなどしたくない、死して尚、己を偽り敬えぬ(おさ)に仕えたくない、だから……だから、我々は心を決めた、(おさ)から自由になるのだと、罪を悔い、人の心が残っているうちに、清き者に滅されるのだと、』
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