第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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そうか……今日のさっき、いきなり思った訳でなかったんだな。 昨日の先代と瀬山さん、二人が少年の話を聞き、それを聞いていたみんなも気持ちが動いたんだ。 『我々には時間がない、もしも解放されずにこのままでいたら、心は完全に蝕まれてしまう。そうなれば誰に何を言われても響かなくなる。さっき……結界が解かれる前、持丸に強く敵対心を持つ者がいただろう? それと岡村が霊矢で肩を打ち抜いた者。あの二人はもう手遅れだった。長きにわたり毒されすぎた。結果、己の事しか考えず、生者と死者を喜びを持って襲うようになった。己の為なら仲間も襲い、彰司さんと持丸を心底憎み、(おさ)にへつらい(こうべ)を垂れる……ああなったらもう、……ああ……だが……だがな、あんな奴らでも昔……生きてた頃は違ったんだ、お人好しで……良く笑い……仲間思いの心の優しい奴らだった……嘘じゃない、……本当に……本当に良い奴らだったんだよ、』 嗚咽を堪え、何度も”本当なんだ”と繰り返す老年に同情せざるを得なかった。 だって辛いよ……もしも僕がこの(ひと)の立場だったら。 明るくて優しい”おくりび”の人達が、万が一変わってしまったら。 辛い気持ちは容易に想像出来る。 この(ひと)達は悪霊で、この(ひと)達は霊媒師で、この(ひと)達は加害者で、この(ひと)達は被害者でもある。 凶悪で、手練れで、人を襲い、不本意に(おさ)の駒にされた。 そして今、後悔と罪悪の深い海で溺れている。 助けて、解放してと、彼らは僕に手を伸ばしているんだ。 この機会を逃したら彼らは救われない。 …… ………… ……………… 「みなさんの気持ちはよくわかりました。本気で解放を望まれているんですね……、では今度は僕の番です。さっきの質問の答えなのですが、」 ____大丈夫か?  ____それで本当に俺達を解放出来るのか(・・・・・・・)……? 「あなた方全員、岡村英海が解放させていただきます。 心を込めて滅しますので、どうぞよろしくお願いします」 男達の一人一人の顔を視て、 背筋を伸ばし腰を折り、 深く頭を下げた。
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