第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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『我々を解放するには滅する必要がある。出来れば一発で仕留めてほしい。そうでないと無駄に苦しむ事になるからな。まあ……我々なぞ苦しんだ方がいいのかもしれないが、そこは情けをかけてくれ。それで……と、岡村は霊矢を使うのだろう? さっき、仲間の肩を撃ったあの勢いでやるんだ。今度は肩でなく心臓を狙ってな。いいか? 決して躊躇するなよ』 瀬山の手練れ、最年長の老年が言った。 滅される側の幽霊が、滅する側の新人霊媒師に技術指導。 申し訳ない……この(ひと)も最期の最期で、こんな指導をする事になるとは思わなかっただろうな。 「は、はい! 躊躇しないで思いっきりいきます。てか……すみません。解放するのが瀬山さんだったら、もっとスムーズだったのに。僕ですみません、だけど頑張ります、思いっきり、霊力(ちから)いっぱい、そして心を込めますからね」 言いながら僕はペコペコと頭を下げた。 すると老年をはじめ他の男達は、顔を見合わせ笑い出したのだ。 え……なんかヘンなコト言ったかな。 『いや、すまん。岡村を馬鹿にしたんじゃないんだ。どうしてこう希少の子という者は腰が低くて気が弱いのだろうと思ってな。霊力(ちから)は誰よりも持っているというのに、』 「希少の子ってみんな気弱キャラなのか……って、僕が気が弱いのは自信を持って認めます。確かに瀬山さんも気が強い方じゃあないなぁ。すっごい手練れなのに腰は低いわ謙虚だわ……あ、一つ訂正。あの人普段は穏やかだけど、修行中はすっごい怖いんだ」 マジすごかった…… ____泣き言は後で聞く!  ____”変化してくれない”じゃない!  ____変化させるんだよっ! ホントにもうキャラ変わりすぎ。 でも好き。 『彰司さんが怖かった……? 岡村に? ……そうか、怖かったのか……』 驚いた顔の老年が独り言ちるかのように言った。 えっと……あれ? 僕、大袈裟に言いすぎた? 「や、確かに怖かったけど、悪口じゃないですからね。あの厳しさは愛情から出たものだ。ちゃんと教えないと現場で僕が困る、そう心配してくれたんです。ありがたいと思ってますよ」 マジ怖かったけど、キャラ変にびっくりしたけどね。 でもそのおかげで再構築が出来るようになった。 まだ完璧じゃないけど、一夜漬けにしては上出来だ。 老年はふと笑い、僕の顔をまじまじと視る。 そして、 『……ああ、わかってる。彰司さんは気分にムラがある人じゃないからな。誰に何を言われても声を荒げる事もない。現場では誰にでも公平で、自分を悪く言った者さえも守る。今まで、あの人が声を荒げ厳しく接したたのは持丸ただ一人。心から大事に想う者には厳しくなるんだ。彰司さんにとって岡村も大事なのだろうな。……少し羨ましいよ』 こう言って、まるで少年にするかのように、僕の頭をグシャグシャと撫ぜてくれたんだ。
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