第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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『ああもう、中村さん話長いよ! 岡村も飽きただろう? 中村さんはさ、生きてた頃は新人の教育担当、教官だったんだ。だから岡村みたいな新人視ると黙ってられないんだろうよ』 肩をすくめ、へへっと笑った男。 老年は恥ずかしそうに『つい、昔を思い出したのだ』と頭を掻いた。 てか……名前、中村さんっていうんだ。 そうか、そうなんだな。 「あの……! 僕飽きてません、すごく勉強になります。……な、中村さん、ありがとうございます」 お礼がてら……思い切って名前で呼んでみた。 呼ばれた中村さんは、一瞬ポカンとし、そして顔を歪めた。 『中村……中村か……此処にいる仲間以外に名前を呼んでもらうなんて……何十年ぶりだろう……嬉しいものだな。”化け物”でも”悪霊”でもなく名前で呼んでもらえるのは』 槍の空間がシンと静まった。 中村さんの鼻をすする音がやけに響く。 「もしよろしければ……みなさんの名前も教えていただけないですか? その方が解放する時、より心を込められると思うんです」 そうだよ、みんなは僕の名前を知っている。 なのに僕は知らないなんて淋しいよ。 これからみんなを滅さなくてはならないんだ。 いなくなってもちゃんと覚えていたい。 『…………俺は杉本だ、杉本(かける)』 最初に名乗ってくれたのは、あの少年だった。 「杉本(かける)君、教えてくれてありがとう。(かける)君って呼んでもいいかな。……あ、そうだ、ついでに教えて。さっき中村さん達が槍を降らしていた時、(かける)君は僕にしがみ付いて離れなかったでしょ? あれはなんで? 槍が止まった途端アッサリ離れたし、不思議に思ってたんだ」 そうだよ、(かける)君は大福に噛まれても離さなかった。 虎の子の牙にも耐えて、おかげで身動きが取れなかったんだ。 『ああ、あれはさ、危なかったからだよ。だって岡村は希少の子で霊に触れる。槍に驚いてさ、下手に動いたらさ、刺さって死ぬじゃん。だから槍が降り終わるまで押さえてなくちゃって思ったんだ。それだけだよ』 恩に着せるでもなく、当たり前だろうとでも言いたげな(かける)君。 驚いた……僕を助けるためだったのか。 「そうだったんだ……ありがとうね。何も言わないから分からなかった。気が付かないでごめん」 『いやいいよ。理由を言えば良かったんだけど、(おさ)に視られてたから。おかしいよな……俺、散々生者を襲ってきたのにさ。でも岡村は特別だ。お前は俺の話を聞いて泣いてくれた。救われたよ、』 …… ………… ………………救われたか。 僕は(かける)君の話を聞いて悲しくなって、堪え切れず涙が出た……ただそれだけだ。 僕はなにもしていない。 なのにそう言ってもらえるとさ、これから(かける)君を滅さなくてはならない僕は、その言葉に救われるんだ。 _______ ★★次のページはお知らせです。 いただいたイラストをご紹介させていただきます(*´ω`*)
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