第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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「丸山さんは霊刀を使われるんですねぇ。そっかぁ、ウチの会社にも霊刀使いがいるから親近感湧いちゃいます。丸山さんはどうして刀なんですか? って……ハッ! もしかして元ヤンだったりします!? ……え、違う? 学生時代は剣道部だった? ああ、そっか、そうですよね、そっちの方が自然ですよねぇ。ははは」 丸山さんは38才、弥生さんと同じ年だが元ヤンではない……と。 こんな感じでみんなの名前を順番に教えてもらう。 僕と同じ霊矢使いの野崎さん、鎖鎌の遠藤さん、森木さんは薙刀で川畠さんは鉤縄(かぎなわ)使い。 和風な武器が並ぶ中『俺のはコレだ』と拳銃を視せてくれた大上さん。 銃の名前はデザートイーグル(砂漠の鷲)と教えてくれたが、僕の中では“デザートにヨーグルト”……なんてくだらないコトが浮かんでいた。 有野さんに飯島さんに横田さん、山川さんに鈴木さんに佐藤さんに……総勢27名。 短いながらも一人一人と話をし、全員の顔と名前を頭に叩き込んだ。 名前を聞き終え、少しの雑談。 最初に比べ空気は随分穏やかだ。 話しながら名前を呼べば、『もう覚えたのか』と驚きつつも嬉しそうにしてくれた。 この中で、一番喋っているのは僕かもしれない。 質問ばっかりしてたんだ。 みんなにさ、趣味とかさ、霊媒師になったキッカケとかさ。 絶対に聞かなくちゃいけないコトじゃない、聞かなくたっていいコトだ。 なのに口が止まらなかった。 だって中村さんが言ったんだ。 『我々を名前で呼んでくれてありがとう。覚えてくれてありがとう。人として扱ってくれてありがとう。……充分だ、これでもう思い残す事はない』 と。 僕が黙ったら、話が途切れたら、いよいよみんなを滅さなくちゃならない。 頭ではわかってる、この機会を逃したら解放出来ない。 このままにしておけば、心は蝕み人でなくなる。 そのうち(おさ)に喰われるか、いつか来る【闇の道】に捕らわれるか、どちらにしたって救われない。 わかっているのに、いざその時が近づくと感情が追いつかない。 『岡村……怖くなったのか? まったく、これだから新人は……』 呆れた口調で呟いた中村さんは、笑いながら泣いていた。 枯れ木のような手の平で、僕の両頬をパンパンと叩く。 「中村さん……すみません。みんなの名前を教えてもらって……嬉しかったんだけど、嬉しい分だけ感情移入しちゃったのかもしれません。話してみたら事情があって、もう悪霊とは思えなくて……土壇場でこんな……本当にすみません、でも大丈夫です。少しだけ時間をください、しっかりしますから、頑張りますから、」 唇を噛み締めて、なんとか声を絞り出す。 情けないな、真に辛いのは僕じゃない。 みんななのに。
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