第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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◆ ……うぅ……う…… どうやら僕は……気を失っていたみたいだ。 頭が重い……頬にあたる地面の感触。 薄く開けた目の先には、僕が丸めた電気が弱々しく光っている。 それすらも眩しく感じ、目を細めるが……意識は徐々に戻りつつあった。 痛む身体をなんとか起こすも、回る眩暈と胃が捻じれるような空腹感に襲われる。 まわりには誰もいなくて、静まり返った空間は僕の呻き声だけが響いていた。 ああ……これ、霊力(ちから)を使いすぎたんだ。 それでも、質より量の僕だから、霊力(ちから)の枯渇は感じない。 ただかなり消耗したらしく、胃が、身体が、エネルギーを強く欲しているのがわかる。 困ったな……食料が入ってるリュックは槍の空間(ココ)の外だ。 本当は何か口にした方がいいんだけど、取りにいけば(おさ)がいる。 こんだけ弱った状態で、奴の前に出るのは危険だし……なんてウダウダしていると…… 薄明りに照らされた大福が、僕のリュックを口に咥えてやってきた。 「持ってきてくれたの……?」 目の前まで来た猫又は、大きなお口をクワッと開けてリュックを地面に落とした。 そして一言『うな』と鳴いて、僕の顔をジッと視る。 「僕がほしいモノ、よくわかったね……ありがと……ありがとね……!」 僕は言いながらちぎるようにリュックを開けた。 取り出すのももどかしく、ひっくり返して食料をぶちまけた。 奥さんが持たせてくれたパンとか飲み物、節約すれば4日は持つと踏んでいたのに。 僕はそれを片っ端から開けて食らいついたんだ。 バクバクバクバク! 頭の中では行儀が悪いな、後の事を考えれば全部食べたら駄目だと思うのに、口に広がるパンの甘味がとてつもなくおいしくて、制御が効かず狂ったように咀嚼した。 ひとつ、またひとつとパンの袋を開けていく……が、とうとうパンがなくなった。 「全部……食べちゃった……ゴッ……ゴホッゴホッ……!」 慌てて食べたせいだろう。 パンがつかえて喉が苦しい。 僕は目についたペットボトルを一気に飲んだ。 途中、お茶が気管に入って咳き込んで、涙と鼻水でグチャグチャになる。 痛くて辛くて気持ち悪くて、だけどおかげで空腹感はなくなった。 同時、眩暈も止まる。 高カロリーな食べ物が身体に入り、一気に元気が湧いてきた。 身体が熱くなってくる、食事の後は体温があがる。 ____あったかいなぁ……生者の体温だ、 …… …………僕に触れた(かける)君が言ってたな。 そうだ、僕は生者で命がある。 (かける)君も中村さんも他のみんなも、かつては持っていた命だ。 失えば戻らない、大事な命。 (おさ)はそれを軽く見る。 他人の命も魂も、まるで自分の為の消耗品のように扱うんだ。 アイツのせいでたくさんの生者も死者も地獄を見た。 腹の底から激しい怒りが込み上げてくる。 「絶対に許しちゃいけない……僕の身体は渡さないし、今日で(おさ)を滅するんだ。____僕は、」 跳ねるように立ち上がり、両手のひらに溜めた霊力(ちから)を、槍の壁にぶっ放す。 バラバラと崩れた壁の先には、先代と瀬山さん、そして(おさ)の姿があった。
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