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『岡村君!』
『岡村さん!』
現れた僕を視て、手練れ二人が駆けてくる。
心配した顔をして、近くに来て目が合うと安堵の息を吐いたんだ。
ああもう……揃ってそんな表情をしないでください。
せっかくのイケメンが台無しだ。
「ご心配をおかけしました。僕は大丈夫ですよ」
頭を下げつつそう言うと、
『怪我は……なさそうだね。良かった、大丈夫だとは思ってたけど……それでもね、岡村さんが(槍の)中に消えてから心配だったんだ』
瀬山さんは言いながら目を細めた。
ただでさえ白い肌は心なしか青みが増してる。
隣に立つ先代も、黒い眉をハの字にさせてこう言った。
『本当に無事で良かったです……とても心配でした。何かあったらすぐに行こうと、中を視ようとしたのに結界に弾かれてしまったんだもの。情報を得られないのは何よりも不安になる。中の様子を私とショウちゃんに視せたくなかったのか……それとも長に視せられなかったのか。だけど中には大福ちゃんがいる、だから暫く様子を見る事にしたんです』
霊視防止の結界を張っていたのか……そんなん一言も言ってなかったのに。
何も言わずにそつなく防御。
こういう事に気が回るのは、長老の中村さんに違いない。
さすがだなぁ……ま、あの中での僕らの会話、長が聞いたら秒でガチギレするだろし、ナイス判断。
だけどその分、先代達に心配かけちゃった。
二人ともごめんなさい。
『とにかく、岡村君が無事で良かった。大福ちゃんもありがとうねぇ。さすがは三尾の猫又だ。大福ちゃんにもボーナスをださないといけないね。
ところで……岡村君。此処に彼らの姿が視えないようだが、解放してあげられたのかい?』
先代が僕に問う。
瀬山さんも気になるようで、一緒になって僕の答えを待っていた。
「はい……彼らは、」
____ドクンッ……!
不意に心臓が鳴った。
大きく一度、その後は強く早く、ドクドクと鳴りやまない。
同時、背中に突き刺すような視線を感じた。
____ドクンッ……ドクンッ……!
全身が粟立つように立った鳥肌。
僕はゆっくりと振り返る……と、そこには邪悪に笑う長がいた。
____ドクンッ……ドクンッ……ドクッドクッドクッ
心臓の音が大きくなっていき、耳の中は心音でいっぱいだ。
先代が何かを言っている、
瀬山さんも何かを言っている、
長も。
____ドクッドクッドクッドクッドクッドクッ、
踊り狂う心臓。
長の口元は ”喰わせろ” と形を造る。
先代と瀬山さんが僕の前に出る、僕を守ろうとする。
ありがたいな、いつだって二人は僕の味方だ。
だけど____
僕は二人を手で制した。
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