第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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ダンッと地を踏み(おさ)を視た。 さっきまで、邪悪な顔で笑っていたのに今は怒りの表情だ。 眉間の皺は食い込んで、血走った眼はギラギラしながら僕を睨む。 『…………あやつらは私を裏切ったのか、』 呻くような低い声は、自分を裏切った駒達への憤りをあらわにさせる。 「…………裏切った、ですか。よく言います。”裏切り”とは、これまでに信頼関係を結んだ者同士の間で起こる事だ。(おさ)と中村さん達の間に信頼関係があったとは思えませんが、』 言いたい事は言わせてもらう。 僕は気が弱いけど、それでも間違った事は大嫌いだ。 『……ナカムラ? あやつらの中にナカムラという名の者がいたのか。……知らんな、興味もない。駒にどんな名がついていようが、私にはどうでも良い事だ。それと……岡村は”信頼関係”と言ったな。笑わせるな。信頼関係とは対等な者同士が結ぶもの。私とあやつらでは格が違う。下等な者共が私の役に立つのだ。喜んでその身を捧げるが当然。時に駒となり、時に私の霊体(からだ)となり、そう、その為に集めた……が、足りなくなれば補うだけの事。 いいか、岡村。勘違いするな。あやつらを生かすも殺すも、決めるのは私だ。従って然り、背くは大罪だ』 …… …………呆れた、 なんなんだ、この人は。 自分勝手極まりない、極度の利己主義者だ。 こんな人が本当に瀬山さんの父親なのか? まるで違うよ、瀬山さんがこんなじゃなくて本当に良かった。 話にならない、これ以上話しても気分が悪くなるだけだ。 だってそうだろ。 (おさ)はさ、中村さんの名前すら覚えていない。 こういう人、本当に大嫌いだ。 そう思ったら、普段の僕なら絶対に言わないような事が口から漏れた。 「…………何様だよ、」 聞いた(おさ)は、途端顔色が変わる。 『…………何だと、今何と言った』 怒気を含んだ声、目が吊り上がる。 瀬山ではお殿様だった(おさ)だもの、僕の発言に腹を立ててるのだろう、知った事か。 「何様だって言ったんだ。あなた、人の上に立つ器じゃない。それでよく瀬山の(おさ)をしてましたね。上に立つ人っていうのは強いだけじゃ駄目なんだ。下の者を大事に出来ない人は上には立てない。部下の名前も覚えてない、自分の為に働いてくれる者を駒扱い。そんな奴に誰も本気で付いていこうと思わない。…………僕の身体は絶対に渡さないから。渡した所で、生者のふりして瀬山に戻った所で、どうせ誰も付いてこない。渡しても無駄にな、」 『黙れぇ!!』 言いたい放題垂れ流す僕に、鼓膜が破けそうな大声を上げた(おさ)は、こめかみにミミズのような血管を浮かべ、眼球は零れそうなほど目を見開いている……。 ゾッとする粘った視線。 同時、悍ましい(おさ)の瘴気が辺りに漂い始めた。 ____ドクンッ! 再び心臓が躍る。 ____ドクンッ!____ドクンッ!____ドクンッ! ____ドクンッ!____ドクンッ!____ドクンッ! 僕のと、それからもう一人。 二人の心音が重なった。 そのタイミングに合わせ、口の中で小さく言霊を唱える……と。 ブンッ、 電子機器の起動音に似た音がして、 瞬時、そこに現れたのは苦内(くない)を持った少年。 彼は静かにこう言った。 『俺にやらせろ』 と。
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