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苦内を握る少年、翔君の背中は殺気立っていた。
ジリジリと地を擦り真正面、真っ直ぐ長と対峙する。
此処から表情は視えないが、強すぎる怒りと恨みがないまぜに、それが激しく噴き出していた。
『この10年……よくも、いいように使ってくれたな、』
それは聞く者をゾッとさせる低い声だった。
怒りの感情は霊力となって漏れるのか、翔君の霊体からは赤い靄が立ち上る。
それを視た長は薄く呆れ息を吐き、つまらなそうな顔をした。
『……なんのつもりだ。まさかそのちゃちな苦内で私に挑もうと言うのか? 笑わせるな愚か者め。象に挑む蟻がどこにいる。お前ごとき、私に傷一つ付ける事は叶わん』
心底興味がない顔で翔君を一瞥すると、長は僕に目線を移そうとした……が、
『ちゃちな苦内で悪かったな。やってみなくちゃわからないさ。
あんたはきっと、俺の名前も知らないんだろうな。だがな、俺はあんたをよく知ってる。俺を殺して此処にさらった張本人だ。俺はあんたが大嫌いだ。陰険で、ウソつきで、卑怯で、そしてひどい自惚れ屋だ。自分が一番偉いと思ってる。とっくに死んで地獄送りのはずなのに、こんな所に隠れて、未練がましく瀬山の長に返り咲こうとしてるんだ。
だけどな、それも今日で終わりだよ! 俺達はあんたを滅する! 道を踏み外した霊媒師の償い、最後の仕事だ!』
長い年月、恐怖による支配に縛られてきた翔君は、今その鎖を完全に断ち切った。
僅かに残る霊媒師としての誇りが大きく息を吹き返したんだ。
言われた長は、こめかみにミミズを這わせ、そのミミズが破裂しそうな程の怒りを露わにさせた。
そして、
『私を滅する!? 忌々しい小僧がぁぁぁぁぁぁ!! お前に何が出来る! お前が私に何が出来る! 喰ってやる! 私の霊体になるがいいぃぃぃぃ!!!』
グワリと口が大きく裂けて、光の速さで宙を飛んだ長は、翔君の頭から喰らいつく。
ギザギザな歯を剥き出しに、首が、翔君の首が、長の口に吸い込まれていった。
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