第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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苦内(くない)を握る少年、(かける)君の背中は殺気立っていた。 ジリジリと地を擦り真正面、真っ直ぐ(おさ)と対峙する。 此処から表情(かお)は視えないが、強すぎる怒りと恨みがないまぜに、それが激しく噴き出していた。 『この10年……よくも、いいように使ってくれたな、』 それは聞く者をゾッとさせる低い声だった。 怒りの感情は霊力(ちから)となって漏れるのか、(かける)君の霊体(からだ)からは赤い靄が立ち上る。 それを視た(おさ)は薄く呆れ息を吐き、つまらなそうな顔をした。 『……なんのつもりだ。まさかそのちゃちな苦内(くない)で私に挑もうと言うのか? 笑わせるな愚か者め。象に挑む蟻がどこにいる。お前ごとき、私に傷一つ付ける事は叶わん』 心底興味がない顔で(かける)君を一瞥すると、(おさ)は僕に目線を移そうとした……が、 『ちゃちな苦内(くない)で悪かったな。やってみなくちゃわからないさ。 あんた(・・・)はきっと、俺の名前も知らないんだろうな。だがな、俺はあんたをよく知ってる。俺を殺して此処にさらった張本人だ。俺はあんたが大嫌いだ。陰険で、ウソつきで、卑怯で、そしてひどい自惚れ屋だ。自分が一番偉いと思ってる。とっくに死んで地獄送りのはずなのに、こんな所に隠れて、未練がましく瀬山の(おさ)に返り咲こうとしてるんだ。 だけどな、それも今日で終わりだよ! 俺達はあんたを滅する! 道を踏み外した霊媒師の償い、最後の仕事だ!』 長い年月、恐怖による支配に縛られてきた(かける)君は、今その鎖を完全に断ち切った。 僅かに残る霊媒師としての誇りが大きく息を吹き返したんだ。 言われた(おさ)は、こめかみにミミズを這わせ、そのミミズが破裂しそうな程の怒りを露わにさせた。 そして、 『私を滅する!? 忌々しい小僧がぁぁぁぁぁぁ!! お前に何が出来る! お前が私に何が出来る! 喰ってやる! 私の霊体(からだ)になるがいいぃぃぃぃ!!!』 グワリと口が大きく裂けて、光の速さで宙を飛んだ(おさ)は、(かける)君の頭から喰らいつく。 ギザギザな歯を剥き出しに、首が、(かける)君の首が、(おさ)の口に吸い込まれていった。
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