第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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まるで蛇の捕食の場面だ。 耳まで裂けた大きな口は、(かける)君を頭から呑み込んで、ズルリと吸い込み、最後、僅かに覗く足先が、今この瞬間(おさ)の中に消えた。 目の前の惨劇に心臓が痛みを持って早くなる。 だが同時、僕は数を数え始めた、声には出さず頭の中で、今すぐ(かける)君を助けたいのを我慢して。 『忌々しい小僧が……なにが私を滅するだ……! そんな事が出来るはずがないだろう。自惚れて、霊力(ちから)を過信し粋がってたとて、私に喰われるだけなのだ。少し考え身の程を知っていれば、まだこの世にいられたものを……まぁ、いい。愚か者でも喰えば私の霊力(ちから)になる、』 7,8,9,10,11、____ 頭の中でカウントを取る。 僕の後ろじゃ味方の”瀬山”が喰われた事で、先代達が叫びながら駆け出した。 急ぎそれを止める為、虎の子大の猫又をチラリと視ると『うな』と一声鳴いた後、二人の行く手を阻みに行った。 20、21,22,23、24、____ 数えるのは五十までだが……もどかしいよ、まだ後半分残ってる、 これ本当に最後まで数えなきゃダメか? ……って、ううん、わかってる、ダメなんだ。 けどさ、わかってても心配だ。 中村さん、大丈夫なんだよね? 信じていいんだよね? 『何故だ……あやつらは私の忠実な駒だった……私を恐れ恐怖し、どんな(めい)にも従ってきた。だのに、この変わりようはなんだ、私を“(おさ)”とも呼ばず、大口を叩きおった……何が起きた、彰司と持丸が来たからか……? それとも……希少の子が何か吹き込んだのか……?』 31、32、33、34、35、____ 独り言ちていた(おさ)が疑心の目をこちらに向けた。 僕との距離、目測2メートル。 近くもないが遠くもない……が、頼む、それ以上は離れないでくれ。 『岡村がそそのかし謀反を起こさせたのだな……あやつらは駒の中でも選りすぐりの手練れ達だ。喰らわず生かしておいたというのに、それをお前が使い物にならなくしたのだ……! 何故だ……何故、彰司といい岡村といい、希少の子は私の邪魔ばかりするのだ……!』 (おさ)の恨み節を聞きながら、僕は下げた両手のひらを向かい合わせた。 表情は消し去って気付かれないよう霊力(ちから)を溜める。 『だが……構わん。岡村の身体と希少の霊力(ちから)はすぐに私の物になるのだ。あやつらが何人いた所で岡村一人の価値にもならん。駒はまた集めればいい。今はまず、謀反を起こした残りの全て、喰らい私の霊力(ちから)にしよう。苦内(くない)の小僧を喰らったようにな』 まったく……(おさ)の話は本当に長いな。 でもいいよ、そのまま一人で話してて、カウントはあと少しで50に届く。 「………………ジュウサン、ヨンジュウヨン、……」 『……? 何を呟いている、』 「……45、46、47、48、49______」 訝し気な(おさ)、両手のひらに溜まる霊力(ちから)、焦る気持ちにプレッシャー、どうか上手くいきますように、 「____50、」
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