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緊張で息が浅くなる。
瞬きをもう一つ、届く鎖は長を貫くかと思われた。
が、長はつまらなそうな顔をして、小さな羽虫を避けるように、鎖を片手で払い落す。
払われた朱色の鎖は速度を殺され、そのままガシャリと地に落ちた。
「…………あぁ、」
思わず声が漏れる。
そんな僕を視た長は、ため息をつきながらこう言った。
『なんだ今のは。ふざけているのか? ちゃちな術だ。霊力はあっても技量が無い。岡村が私に挑むなぞ百年早い。まったく……希少の子が聞いて呆れる。彰司の方が何倍も長けているではないか。やはり岡村に希少の霊力は分不相応だ。……クク、だが安心するがいい。岡村の身体は私が____』
”霊力があっても技量が無い” か。
これ前に水渦さんにも言われたな。
確かにその通りだ、僕は未熟で技術がない。
だけどまだ終わってない、このまま”駄目”の烙印を押されるか、それとも挽回なるかは、あと数秒もすればわかる事。
長は変わらず話が長い。
ネチネチグジグジ何かを言ってる。
僕は落ち込む振りして俯いて、地面に転がる朱色の鎖を盗み視ていた。
鎖はすっかりチカラを失くし、抜け殻のように丸まってピクリとも動かない。
クソ……失敗か? あと10数えてそれでダメなら僕が行くしかない。
口の中がカラカラに乾く、焦りが脂汗となって滲み出て、それでもなんとか頭の中でカウントを取ろうとした時だった。
……カショ
微かに鎖が動いた。
ドクンと心臓が跳ね上がる、だが、気付かれちゃいけない。
項垂れたまま、長の流す戯言を聞いているフリをする。
……カショ……カショ……ジャラッッ!!
突如鎖が起立した。
Iの字からSの字にたわんだと思った次の瞬間、
ギチィッ!!
朱色の鎖は長の腰を突き刺して、その霊体の中へと入り込む。
『……ッ!! なんだ!!』
さすがの長も話を止めた。
腰を捻り後ろを向いて、自身を突き刺す鎖を視ようとする、が、それよりも早く、鎖は霊体の外へと飛び出した。
お土産に、翔君をグルグル巻きに縛りながら。
「翔君!」
僕はすぐに鎖の親玉、朱色の塊を力一杯手前に引いた。
それはすなわち翔君を引き寄せる事になる。
『……ぶはぁッ!!』
勢いよく飛んできた翔君とガチンコにぶつかって、二人で地面に転がった。
同時、鎖の親玉が手から離れ、少年を縛る鎖も消え去った。
「どこか痛い所は!? 霊体溶けてない!? ダイジョブ!?」
僕はテンパり翔君を抱きしめながら、無事かどうかをしつこいくらいに聞きまくった。
『無事だ! 岡村の霊力が効いたんだ! そんな事より逃げるぞ! オイ猫っ! お前も来い! 長から離れろっ!』
翔君に蹴飛ばされ、僕と猫又は言われた通り全力で走った。
後ろでは『逃げても無駄だ』と長の声。
気にしてられるか、無視だ無視。
走りながら「先代達も此処から離れて!」それだけ言って、あとはひたすら遠くへ逃げる。
「ハァ! ハァ! 苦し、もう、無理、」
喘ぎ喘ぎ弱音を吐いて、もつれた足が絡まってそのまま派手に転んでしまった。
『岡村っ!』
先を行く翔君が踵を返し、転んだ僕を助けにくる。
「ごめ、」
言いかけたのとほぼ同時だった。
突如大きな爆発音が聞こえた。
翔君と僕と大福。
三者そろって後ろを向けば、立ち上る煙がもうもうと視えた。
『……上手く……いったみたいだな』
翔君が息を吐いて汗を拭う。
そうだ。
今しがた、長が爆発した。
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