第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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緊張で息が浅くなる。 瞬きをもう一つ、届く鎖は(おさ)を貫くかと思われた。 が、(おさ)はつまらなそうな顔をして、小さな羽虫を避けるように、鎖を片手で払い落す。 払われた朱色の鎖は速度を殺され、そのままガシャリと地に落ちた。 「…………あぁ、」 思わず声が漏れる。 そんな僕を視た(おさ)は、ため息をつきながらこう言った。 『なんだ今のは。ふざけているのか? ちゃちな術だ。霊力(ちから)はあっても技量が無い。岡村が私に挑むなぞ百年早い。まったく……希少の子が聞いて呆れる。彰司の方が何倍も長けているではないか。やはり岡村に希少の霊力(ちから)は分不相応だ。……クク、だが安心するがいい。岡村の身体は私が____』 ”霊力(ちから)があっても技量が無い” か。 これ前に水渦(みうず)さんにも言われたな。 確かにその通りだ、僕は未熟で技術がない。 だけどまだ終わってない、このまま”駄目”の烙印を押されるか、それとも挽回なるかは、あと数秒もすればわかる事。 (おさ)は変わらず話が長い。 ネチネチグジグジ何かを言ってる。 僕は落ち込む振りして俯いて、地面に転がる朱色の鎖を盗み視ていた。 鎖はすっかりチカラを失くし、抜け殻のように丸まってピクリとも動かない。 クソ……失敗か? あと10数えてそれでダメなら僕が行くしかない。 口の中がカラカラに乾く、焦りが脂汗となって滲み出て、それでもなんとか頭の中でカウントを取ろうとした時だった。 ……カショ 微かに鎖が動いた。 ドクンと心臓が跳ね上がる、だが、気付かれちゃいけない。 項垂れたまま、(おさ)の流す戯言を聞いているフリをする。 ……カショ……カショ……ジャラッッ!! 突如鎖が起立した。 Iの字からSの字にたわんだと思った次の瞬間、 ギチィッ!! 朱色の鎖は(おさ)の腰を突き刺して、その霊体(からだ)の中へと入り込む。 『……ッ!! なんだ!!』 さすがの(おさ)も話を止めた。 腰を捻り後ろを向いて、自身を突き刺す鎖を視ようとする、が、それよりも早く、鎖は霊体(からだ)の外へと飛び出した。 お土産に、(かける)君をグルグル巻きに縛りながら。 「(かける)君!」 僕はすぐに鎖の親玉、朱色の塊を力一杯手前に引いた。 それはすなわち(かける)君を引き寄せる事になる。 『……ぶはぁッ!!』 勢いよく飛んできた(かける)君とガチンコにぶつかって、二人で地面に転がった。 同時、鎖の親玉が手から離れ、少年を縛る鎖も消え去った。 「どこか痛い所は!? 霊体(からだ)溶けてない!? ダイジョブ!?」 僕はテンパり(かける)君を抱きしめながら、無事かどうかをしつこいくらいに聞きまくった。 『無事だ! 岡村の霊力(ちから)が効いたんだ! そんな事より逃げるぞ! オイ猫っ! お前も来い! (おさ)から離れろっ!』 (かける)君に蹴飛ばされ、僕と猫又は言われた通り全力で走った。 後ろでは『逃げても無駄だ』と(おさ)の声。 気にしてられるか、無視だ無視。 走りながら「先代達も此処から離れて!」それだけ言って、あとはひたすら遠くへ逃げる。 「ハァ! ハァ! 苦し、もう、無理、」 喘ぎ喘ぎ弱音を吐いて、もつれた足が絡まってそのまま派手に転んでしまった。 『岡村っ!』 先を行く(かける)君が踵を返し、転んだ僕を助けにくる。 「ごめ、」 言いかけたのとほぼ同時だった。 突如大きな爆発音が聞こえた。 (かける)君と僕と大福。 三者そろって後ろを向けば、立ち上る煙がもうもうと視えた。 『……上手く……いったみたいだな』 (かける)君が息を吐いて汗を拭う。 そうだ。 今しがた、(おさ)が爆発した。
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