第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

123/267
前へ
/2550ページ
次へ
◆◆ ~~さかのぼる事少し前、槍で作られた空間で~~ 心を込めて滅する、そう新たに思ったその時。 手練れのみんなを押しのけて前に出た(かける)君……なんだか様子がおかしい。 変だなと思いつつ、僕もみんなも少年を視ていると。 『俺……やっぱり滅されたくない』 拳を握りしめ、燃えるような目でそう言ったんだ。 あぁ……僕は言葉が出なかった。 そうだ、解放とは滅する事。 滅すれば魂はなくなる、無になってしまうんだ。 怖くて然り、魂を惜しんで然り。 事情を知ってしまった僕は、とてもじゃないけど責める事が出来ない。 (かける)君は享年17才。 あまりに若く、しかも本人の望まぬ死だった。 かわいそうに……夢があっただろう、やりたい事もあっただろう。 そして家族思いの彼は自分の手で稼ぎ、お母さんと妹さんに楽をさせたかっただろうが、どれもこれも叶わなかった。 それどころか駒にされ、悪事の限りを強制された。 こう言われては、話を聞かない訳にいかない。 嫌だというのに無理に滅するなんて出来ないもの。 (かける)君と話したい、そう思って声をかけようとした時だった。 僕より先に中村さんが言ったんだ。 『(かける)……気持ちはわかるが、此処に残れば地獄あるのみ。(おさ)に喰われるか【闇の道】に捕らわれるかしかなく、』 自身も辛い表情で言葉を発する中村さん。 だが(かける)君は、それを強引に遮った。 『わかってる! ……中村さん、そんなのよくわかってるよ。俺が言いたいのはそうじゃない。滅されたくないのは魂が惜しくなったからじゃないさ。俺……岡村に救われたんだ。名前で呼んでくれたのも嬉しい。だけどさ、それ以上に俺の為に泣いてくれたのが嬉しかった。(おさ)は俺達の為に泣いた事も、何かをして労ってくれた事もない。利用して、酷使して、消耗品として扱う。俺……許せないんだ。俺達はモノじゃない、生者を襲いたくもなかった、なのに、好き勝手に命令して、好き勝手に使う……アイツ……大嫌いだ……! だからさ、俺、(おさ)に一矢報いたいんだよ、』 ギリギリと唇を噛み、握った拳に爪が食い込む。 (かける)君は真剣な顔を中村さんとみんなに向けた。 『正直さ、岡村に解放してもらえば楽になれると思う。あんな強烈な霊矢で撃たれたらさ、苦しむ暇もないだろうし。……でも、やっぱり悔しいよ……俺、いっぱい金を稼いで家族を楽にしてやりたかった……彼女とだって二十歳(はたち)になったら結婚しようって約束してた……それを(おさ)が……アイツがみんな駄目にした……! 許せない……! だからさ、どうせ無になるんなら最後に一泡喰わせてやりたいんだよ……!』 最後の方はグチャグチャに泣きながら、叫ぶように一矢報いたいと繰り返す。 それを聞いた手練れ達は複雑な顔で口を閉じた。 目を閉じて考え込む中村さんも黙ったままで、沈黙が流れる中、薙刀使いの森木さんが声を上げた。
/2550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2366人が本棚に入れています
本棚に追加