第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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『えぇっとー、(かける)君。キミの気持ちは森木にもよくわかります、はい』 森木さんは享年60才。 白と黒のごま塩頭はモジャモジャで、趣味は囲碁、小柄で穏やかそうな視た目に合った、ゆっくりとした話し方だ。 男性にしては声が高く、話の最初に必ず『えぇっとー』とつける。 ギラついていた(かける)君も、森木さんの口癖に少しだけチカラが抜けたように視えた。 『えぇっとー、(かける)君は一矢報いたいんですよね。それは此処にいるみんなも思ってる事ですよ、はい。でもね、それがどうにも難しい。なぜなら(おさ)に攻撃をしようとした所で、その前に喰われてしまうからです、はい。傷の一つも付けてやりたいが切願しても叶わない。攻撃が失敗に終わるだけならまだいい。真に怖いのは我々を喰った(おさ)は、我々の魂を霊力(ちから)に変えてしまう事です、はい。そうなれば一矢報いるどころか、(おさ)の益になってしまう。それこそ不本意ですよ……はい』 森木さんは言いながら落ち込んでいた。 この幽霊(ひと)もまた、出来る事なら一矢報いたいのだろう。 『………………そう……だよな。魂をかけてさ、魂と引き換えに刺し違おうとしたって……それすら出来ない。俺達が必死になって挑んでも、(おさ)には通じない……霊力(ちから)をくれてやるだけなんだ……悔しい……悔しいよ……』 (かける)君は嗚咽を漏らして泣いていた。 その嗚咽が引き金となり、他の男達も次々に泣き出してしまう。 『お、俺だって本当はアイツをやってりたいよ』 『同じ無になるなら、最期に弾丸を撃ち込みてぇや』 『俺もだ、霊刀で滅してやりたい』 『だが我々の魂が奴の利になるのは耐えられん……!』 聞いてて僕も涙が止まらなかった。 確かにさ、この幽霊達(ひとたち)は罪を犯した。 だけど本意じゃなかったし、すべては(おさ)が悪いんだ。 罪を悔い、自ら滅される覚悟もあるのに。 どうせ無になるならと、魂をかけた反撃すら叶わない。 それをすれば得をするのは(おさ)だもの。 悔しい……僕も悔しいよ……! みんなの気持ちを思えば身が引き裂かれそうになる。 槍でこさえた空間は、僕を含めた男達の泣き声がこだましていた。 どうしたらいいんだろう。 解放するにしたってさ、これじゃあもう、笑って送り出す事は出来ないよ。 悲愴な空気が流れる中、一人考え込んでいた中村さんがこんな事を言い出した。 『(おさ)に一矢報いたい……出来る出来ないは別として、皆は本気でそう思うのか?』 落ち着いた低い声。 みんなは一斉に頷いた。 何度も何度も、泣きながら、だが力強く。 その様子に中村さんは深いため息をつく……と、おもむろに____ 白髪の目立つ長い髪を結わき直すとキッチリとひっつめた。 口の中で何かを呟き、手のひらに光の珠を出現させる。 その珠で照らしながら、男達と僕の顔を順番に視て、そして。 『そうか……このまま岡村に頼めば楽に逝けるものを……まったく、ウチの連中はどうかしてる。まぁもっとも、私もどうかしてるがね。 ああ、そうだな……これが最期だ。ならば一矢報おうじゃないか。喰われるだろうって? 大丈夫。1人2人のチカラでは(おさ)には勝てん。だが我々は1人じゃない、全部で28人(・・・)だ! 我々と、我々と一緒に戦う希少の子がいる! 喰われるはずがない! 負けるはずがない! さぁ! 顔を上げろ! 涙を拭け! 傷の一つなどケチな事を言うな! 滅しに行くぞ! 道を踏み外した霊媒師の最後の仕事だ!』
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