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『えぇっとー、翔君。キミの気持ちは森木にもよくわかります、はい』
森木さんは享年60才。
白と黒のごま塩頭はモジャモジャで、趣味は囲碁、小柄で穏やかそうな視た目に合った、ゆっくりとした話し方だ。
男性にしては声が高く、話の最初に必ず『えぇっとー』とつける。
ギラついていた翔君も、森木さんの口癖に少しだけチカラが抜けたように視えた。
『えぇっとー、翔君は一矢報いたいんですよね。それは此処にいるみんなも思ってる事ですよ、はい。でもね、それがどうにも難しい。なぜなら長に攻撃をしようとした所で、その前に喰われてしまうからです、はい。傷の一つも付けてやりたいが切願しても叶わない。攻撃が失敗に終わるだけならまだいい。真に怖いのは我々を喰った長は、我々の魂を霊力に変えてしまう事です、はい。そうなれば一矢報いるどころか、長の益になってしまう。それこそ不本意ですよ……はい』
森木さんは言いながら落ち込んでいた。
この幽霊もまた、出来る事なら一矢報いたいのだろう。
『………………そう……だよな。魂をかけてさ、魂と引き換えに刺し違おうとしたって……それすら出来ない。俺達が必死になって挑んでも、長には通じない……霊力をくれてやるだけなんだ……悔しい……悔しいよ……』
翔君は嗚咽を漏らして泣いていた。
その嗚咽が引き金となり、他の男達も次々に泣き出してしまう。
『お、俺だって本当はアイツをやってりたいよ』
『同じ無になるなら、最期に弾丸を撃ち込みてぇや』
『俺もだ、霊刀で滅してやりたい』
『だが我々の魂が奴の利になるのは耐えられん……!』
聞いてて僕も涙が止まらなかった。
確かにさ、この幽霊達は罪を犯した。
だけど本意じゃなかったし、すべては長が悪いんだ。
罪を悔い、自ら滅される覚悟もあるのに。
どうせ無になるならと、魂をかけた反撃すら叶わない。
それをすれば得をするのは長だもの。
悔しい……僕も悔しいよ……!
みんなの気持ちを思えば身が引き裂かれそうになる。
槍でこさえた空間は、僕を含めた男達の泣き声がこだましていた。
どうしたらいいんだろう。
解放するにしたってさ、これじゃあもう、笑って送り出す事は出来ないよ。
悲愴な空気が流れる中、一人考え込んでいた中村さんがこんな事を言い出した。
『長に一矢報いたい……出来る出来ないは別として、皆は本気でそう思うのか?』
落ち着いた低い声。
みんなは一斉に頷いた。
何度も何度も、泣きながら、だが力強く。
その様子に中村さんは深いため息をつく……と、おもむろに____
白髪の目立つ長い髪を結わき直すとキッチリとひっつめた。
口の中で何かを呟き、手のひらに光の珠を出現させる。
その珠で照らしながら、男達と僕の顔を順番に視て、そして。
『そうか……このまま岡村に頼めば楽に逝けるものを……まったく、ウチの連中はどうかしてる。まぁもっとも、私もどうかしてるがね。
ああ、そうだな……これが最期だ。ならば一矢報おうじゃないか。喰われるだろうって? 大丈夫。1人2人のチカラでは長には勝てん。だが我々は1人じゃない、全部で28人だ! 我々と、我々と一緒に戦う希少の子がいる! 喰われるはずがない! 負けるはずがない! さぁ! 顔を上げろ! 涙を拭け! 傷の一つなどケチな事を言うな! 滅しに行くぞ! 道を踏み外した霊媒師の最後の仕事だ!』
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