第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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急いで説明をした。 時間がないから簡単にだけど、みんなが本気で(おさ)を滅したいと思ってる事、それから、今のみんなは”悪霊”じゃない、”瀬山の霊媒師”に戻ってくれたのだと、説明したんだ。 『そう……私はてっきり、岡村君は彼らを滅するものだと思っていました。それがまぁ、ふふふ、滅する側と滅される側が協力し合うとはまぁ、一体どんな話をしたの、まったく、そんなコトになってたなんて、あらあらまあまあ、』 そう言った先代は『あらあらまあまあ』を繰り返し、僕の顔をしげしげと眺めていた。 近い距離で目が合って、なんとなく互いを視たまま……なんだけど、途中先代は僕の顔を覗き込み、ふにゃっと笑うと頬を優しく拭ってくれた。 「あ、あれ? もしかして……僕の顔、汚れてます?」 さっき地面に転んだからな、その時に泥がついたのかも。 いい年した中年が恥ずかしい……と、思う反面。 骨太のゴツイ手は氷のように冷たくて、走った身体に気持ちがいいのと、肌から伝わる激甘の祖父のような優しさに、訳もなく泣きたくなった。 『うん、ほっぺにね、少しだけ泥がついてた。これでキレイになったよ』 言いながらニコーッと笑った先代は、顔はすこぶる若いのに出す空気はいつものお爺ちゃんそのもので、30過ぎた大人の僕をまるで子供扱いだ。 だけどなんだか安心するよ。 (おさ)を喋らせ(いや、勝手に喋ってくれたけど)時間を稼ぎ、ワザと喰われた(かける)君を助け出す____胃が痛くなる緊張感が溶けていく。 横を視れば(かける)君もまた、瀬山さんに頭を撫ぜられていた。 『キミは昨日の子だよね。爆弾、頑張ったね。それから……今まで嫌だったよね、怖かったよね、辛かったよね。ごめんね、もっと早く来れたら良かった、』 言い終えるより先に、瀬山さんは少年を抱きしめていた。 震える声で『父がごめん』と何度も言って、対し(かける)君は『あんたが悪いんじゃない』と首を横に振っていた。 辛いな……(かける)君はこんなに良い子で、それは視たらすぐわかる。 瀬山さん、自分の父親のせいでみんなを巻き込み苦しめた、そう責任を感じているのかもしれない。 痛みが伝わってくる……僕と瀬山さんは似てるんだ。 気の弱いトコも、自分のせいで誰かが傷付くのが精神的に耐えがたいトコも。 声をかけようかな、と思った。 瀬山さんが悪いんじゃない、(かける)君もみんなも、すべてがすべて悪いんじゃない、だから、必要以上に自分を責めたらダメなんです、そう言おうと思った……が、 ____ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ!  ______ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ!  ____ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ______ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! 心臓が、激しく大きく鳴り出した。 僕の音に重なって、何かを訴えるように鳴り響いているんだ。 …… …………この音が何を訴えたいのか。 ははは、わかってる。 待ちきれないのね。 ____岡村ーーっ! 我々を早く此処から出さないかーーーーっ! 刹那、手練れの男達の声が、僕の頭に響き渡ったのだ。
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