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中村さんの答えを聞けないまま、僕は斬り込み隊の動きを視続けていた。
此処から蛇まで目測、20から30メートル。
少し距離はあるけれど、30過ぎてもいまだ視力は2.0。
肉眼だって余裕で視える。
蛇は鎌首もたげて揺れていた。
霊体中に小さな蛇を生やしているが、唯一、顔には生えていない。
代わり、不揃いな無数の瘤が顔一面に張り付いて、そりゃあもうボコボコもいいとこで……思わず直視を避けてしまう。
もうさ、なんなの?
長のセンスは最悪だ。
顔はボコボコ、霊体全体イソギンチャクって、趣味が悪いにも程がある。
どこから視ても気持ちが悪く、湧き上がる生理的嫌悪感……これをなんとか押さえつけていた同刻。
斬り込み隊が蛇を囲み配置についた。
最初に動いたのは翔君だった。
彼は蛇の正面に立つと、顔を思いっ切り上に上げた。
そして、
『なぁ、俺の爆弾どうだった?』
挑発的に……否、挑発しまくりで大声を上げた。
斬り込みってそっち? 霊術じゃなくて口頭?
や、なにか考えがあるんだろうけど、大丈夫なのか?
だって空気が変わったよ。
怒りの空気が離れたココまで流れてくる。
まんまとやられた爆弾ネタを振るなんて、長、ガチギレしそう、怒りまくってすぐにでも喰らいに来そう。
僕はいつでも霊鎖を出せるように準備しながら、翔君の動向を視守っていた。
『”ちゃちな苦内で私に挑むのか”とか言ってたよなぁ? 俺、アンタの中に入ってさ、構築した爆弾、そのちゃちな苦内で固定したんだ。悔しいか? だけど言っただろ? ”やってみなくちゃわからない”って』
構えもしない。
力を抜いて、下手をすればだらしのない立ち方で、長に向かって挑発を続ける。
翔君以外の男達は、長く伸ばした蛇の霊体の側面に立ち、挑発的なセリフを聞くたび馬鹿にしたように笑っていた。
この感じ、覚えがある。
山に来てすぐ、彼らは瀬山さんを”心中”と呼んで笑った。
嫌な空気を醸し出し、侮蔑と嘲笑を織り交ぜて、しつこく何度もそう言った。
すごく気分が悪かった……けど、瀬山さんはそれに対して、沈黙で耐えきったんだ。
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