第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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『そうだな、言いたい事はだいたい言った。これ以上は同じ事の繰り返しになる。だからもういいや』 細めた目、顎を上げてダラリと立って、歪んだ笑みで答える態度は明らかに挑発的だ。 鎌首もたげる長い霊体(からだ)で数多の蛇が蠢き続ける。 左右に上下、好き勝手に動いているが、共通して言えるのはどの蛇も身を捩らして(かける)君を視ている事だ。 暗色の斑なウロコ、(おさ)と同じに瘤の顔、瘤に紛れる真っ赤な目が(かける)君を捕らえて離さない。 (おさ)は再びだんまりで、ただただ(かける)君を視下ろすばかり。 相当怒っているはずなんだ。 いつ爆発したっておかしくない。 本当に……大丈夫か? 瘤の顔の真下に立って、『もういいや』となげやりだった(かける)君……だったのに、急に何かを思い出したように、こんな事を言いだした。 『あっ、そうだ。言い忘れてた。あのさ、あのさ、瀬山さんってさ、……ああ、そうか。アンタも”瀬山さん”だったな。チガウ、アンタじゃない。彰司さんの方な。昨日の夜、俺、こっそり彰司さんと話をしたんだ、』 息子の名前が出された途端、空気が重く変わった。 (おさ)は変わらず無言だが、揺れてた首がピタリと止まる。 (かける)君は、変わった空気に気付いているのかいないのか。 無邪気な顔してペラペラと話し出す。 『アンタって嘘つきだな。彰司さん、悪い人じゃなかったよ。それどころかすごく良い人だった。俺の話、ずっと聞いてくれたんだ。俺さ、若いしさ、彰司さんが生きてた頃知らないしさ、だからアンタの話を鵜呑みにしてた。”悪い奴”だって、”瀬山一族を裏切った嫌な奴”だって、ずーっと言ってたよな。嘘つき。彰司さんは優しい人だ。アンタとは全然チガウ。とてもじゃないけど親子だなんて思えないや。俺はアンタが大嫌い、だけど彰司さんは大、』 『黙れ小僧……! 黙れ……黙れ黙れ黙れぇぇぇぇぇぇ!』 突然だ、突然(おさ)が激高した。 言いかけた(かける)君を遮って、黙れ黙れと絶叫してる。 こういうキレ方、確かにさっきもしてたけど、割れんばかりの大声は霊体(からだ)の蛇をグチャグチャに刺激する。 『彰司が良い人だと? 知ったような口をきくなぁぁぁぁっ! あやつの裏切りで私は地に落とされたのだ! 霊力(ちから)のない下等な女に(うつつ)を抜かし! 私の(めい)を背き! 挙句女と心中したっ! そのせいで恥をかかされ、私は”(おさ)”でいられなくなったのだ! 彰司さえ裏切らなければ私は…………ぁあぁぁあああ!! お前ごときに何が解る!! 希少の子でもない、ただの虫けらがぁぁぁぁぁぁ!! 虫けらまで私を侮辱するのかぁぁぁぁぁ! ぁぁぁぁぁあああああああああああ!!』 開いた口に粘った糸をいくつも引いて。 狂ったように叫んだ(おさ)は、暴れる蛇を纏った姿で霊体(からだ)を縦に持ち上げた。 だがしかし、(かける)君は動かない。 斬り込み隊の男達は、怒る(おさ)を一瞥すると素早い動きで印を結びだし____ ____一番早く結び終えたのは大鎌使いの杉野さんだった。 彼は口の中で何かを呟き、ただでさえ大きな鎌を巨大化させた。 『(かける)! そこを絶対動くなよ!』 杉野さんは大声でそう言うと、鎌の柄を両手で持って、助走も無しに上に飛んだのだが……た、高い……! 同時、(おさ)の頭が下を向く、 地に立つ(かける)君を凝視して、(かける)君を目掛けて、(かける)君を滅する気で、急降下を始めた。
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