第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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放った霊鎖が鞭のごとく飛び急ぐ。 縦180度に開いた口が、少年を呑み込もうとしたほんの半瞬前。 鎖が(かける)君を掴み取った。 蛇の口は空振りに閉ざされて、中身が無い事に激しい憤怒をまき散らす……が、知ったコトかっ! 「はぁぁぁぁぁぁ!! 間に合ったぁぁぁぁぁ!! キャッチ!! そしてテイクアウト!!」 間一髪だ、なんとか(かける)君を掴む事が出来た。 僕は半ギレ、鎖を乱暴に引き寄せてグルグル巻きの少年を回収した。 ヒューン……ガチコーンッ!! 「『うわぁっ!!』」 まただ、2回目。 僕と(かける)君はガチンコにぶつかって、そのまま地面に倒れ込む。 『ダイジョブカー?』と中村さんの声がして(棒読み)、僕は上にかぶさる少年を蹴飛ばすように退けたんだ。 言いたい事がいっぱいある。 そりゃあ助けるさ、絶対みんなを喰わせない。 でもさ、ワザと喰われるのはダメだろう。 もし僕が失敗したらどうすんの。 極力自分で逃げてもらって、その上で喰われたら救出する。 コレ、常識! とりあえず文句を言わなきゃ気がすまない。 今戦闘中だし長い説教はしないけど、手短に、だけどガッツリ怒ってやるんだからね! と思ったのに。 『岡村ぁ! ありがとな!』 (かける)君は無邪気に僕に飛びついたんだ。 んで、 『絶対助けてくれると思ってた! だから動かなかったんだ! えぇ? 怖い訳ないじゃん! だってお前がいるもん!』 超笑顔、超嬉しそう、超ハイテンション。 んで、 『俺さ、杉野っちにも言われたじゃん! 「(かける)! そこを絶対に動くなよ!」って! だから動かなかったん! だって「動いていいぞ」って言われていないし! 俺が動くと(おさ)がニョロニョロしちゃって、小蛇刈りが出来なくなるだろ? 作戦だよ作戦! 杉野っち半分以上刈り取ったし、もう動いていいかなって思ったけど、岡村いるからギリギリまで頑張ろうと思ってさ! なぁ褒めてくれよ! ……って、あーっ! 俺もう戻らなくちゃ! 岡村! またよろしくな!』 両肩掴んでガクガクした後、(かける)君は飛び起きて、そのまま走って行ってしまった。 「や、ちょ、待って、僕、一言もしゃべってない…………ああ、ありゃまたやるな」 はぁ、とため息で独り言ち、僕はノロノロと立ち上がる。 隣ではクックと笑う中村さんが『ご苦労さん』と労ってくれた。 若いって怖いな、僕ならワザと喰われに行ったりしないよ。 (おさ)の腹なんてキモチワルイ、入りたくない。 だからさっきも喰われる前に助けたんだ、うん、そう、毎回は無理かもだけど、なるべくね、そうしたい。 あっという間に小さくなった(かける)君の背中。 もういいや、何度だって助けるからねと苦笑と共に覚悟をした時、前に向けた視界の中に、地面に倒れる杉野さんを視た。 「え……?」 彼の顔はド紫に変色し、意識が薄いように視えた。 負の雨から斬り込み隊を守っていた二人組。 大橋さんがそこから抜けて、杉野さんの回復にあたっている。 代わり、斧使いの林さんと釘付きこん棒の高野さんが前に出た。 (おさ)を視れば、背中の小蛇はほとんど削げて、まばらに残るのみとなっていた。
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