第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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フラつきながらも一人で歩いて此処に来た。 疲労は色濃く出てるのに、その目は力に満ちている。 杉野さんは僕らの前で足を止めると、 『あんなもんで良かったか?』 中村さんにそう聞いた。 聞かれた手練れは目尻りにたっぷりの皺を寄せ『十二分だ、』と歯を視せる。 そして、 『杉野、悪いが休んでる暇はない。残りの負傷が回復し次第すぐに現場に戻ってもらう。岡村、杉野を治してやってくれ。私はその間にアイツらを送り出す、』 それだけ言って後ろを向くと『第2班! 第3班!』と声を張り上げ、それに応える野太い声が僕の鼓膜を揺さぶった。 手にした武器を空に上げ、ダンダン足を鳴らしてて、す……すごい、みんな気合十分だ。 なんだか胸がドキドキするよ。 出来る事なら一緒に行きたい、……でも、悔しいけどさ、今の僕じゃ足手まといだ。 だから、だったら、僕は僕に出来る事、僕にしか出来ない事を頑張るよ。 「杉野さん、傷を治しましょう」 僕は両手を向かい合わせ、癒しの霊力(ちから)の準備を始めた。 …… ………… ……………… 癒しの光は真白な雪色。 まるで温泉みたいな温かさ。 その霊力(ちから)で杉野さんを包み込む。 『はぁぁぁぁ……あったかいなぁぁ……眠くなってくるぅ』 杉野(じん)さん、享年52才。 大きな鎌を自在に操る強者は、目を閉じ癒しを堪能中だ……なんだけど、おかしいなぁ。 負傷の箇所が回復しない、いやチガウ、回復はしてるけど、治る速度が異様に遅い。 「杉野さん、時間がかかってごめんなさい。いつもはこんなに遅くないんだ。どうして今日は治りが悪いんだろ。早くみんなの所に行きたいですよね、もうちょっと待ってください、」 焦ってしまう。 ずっとこの調子だ。 全回復してくれない。 ちょっと治って、停滞して、またちょっと治る、さっきからこの繰り返し。 なんでだろ……癒しの腕が落ちたのか? ついさっき、”僕にしか出来ない事を頑張る”なんて思ったばかりだというのに、これじゃあ役に立てないよ。 汗をかいて癒し続ける、そんな僕をまったく視てない大鎌使いは(や、だって半分寝てる、杉野さん、目ぇ瞑っちゃってる)、脱力声で言ったんだ。 『焦らなくていい、大丈夫だ、治りが遅いのは岡村のせいじゃない。小蛇の瘴気のせいなんだ。俺の霊体(からだ)に瘴気が入り込んでいる。(おさ)のはしつこいからな、時間がかかるのは当たり前だ。ゆっくりやってくれ』 「小蛇の瘴気が入り込んでいる……? それって要は毒蛇だったって事ですか? 杉野さん……それわかってて直接刈りに行ったんです? 一匹二匹じゃないのに? 何百何千何万といたのに?」   嘘だろ……? 毒蛇だってわかってて、なのに刈りに行ったのか? 巨大な蛇に飛び乗って、大鎌で切断し、千切れた少蛇を大量に浴びながら、毒に侵され続けながら、それでも最後まで刈り切ったというのか? ああ……だからか、途中で杉野さんは叫んでた。 ____ドチクショォォォォォォオオオオオオオオオッ!! と。 辛かったんだ、きつかったんだ。 なのに逃げずに、なのに諦めずに、みんなの為に____
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