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フラつきながらも一人で歩いて此処に来た。
疲労は色濃く出てるのに、その目は力に満ちている。
杉野さんは僕らの前で足を止めると、
『あんなもんで良かったか?』
中村さんにそう聞いた。
聞かれた手練れは目尻りにたっぷりの皺を寄せ『十二分だ、』と歯を視せる。
そして、
『杉野、悪いが休んでる暇はない。残りの負傷が回復し次第すぐに現場に戻ってもらう。岡村、杉野を治してやってくれ。私はその間にアイツらを送り出す、』
それだけ言って後ろを向くと『第2班! 第3班!』と声を張り上げ、それに応える野太い声が僕の鼓膜を揺さぶった。
手にした武器を空に上げ、ダンダン足を鳴らしてて、す……すごい、みんな気合十分だ。
なんだか胸がドキドキするよ。
出来る事なら一緒に行きたい、……でも、悔しいけどさ、今の僕じゃ足手まといだ。
だから、だったら、僕は僕に出来る事、僕にしか出来ない事を頑張るよ。
「杉野さん、傷を治しましょう」
僕は両手を向かい合わせ、癒しの霊力の準備を始めた。
……
…………
………………
癒しの光は真白な雪色。
まるで温泉みたいな温かさ。
その霊力で杉野さんを包み込む。
『はぁぁぁぁ……あったかいなぁぁ……眠くなってくるぅ』
杉野仁さん、享年52才。
大きな鎌を自在に操る強者は、目を閉じ癒しを堪能中だ……なんだけど、おかしいなぁ。
負傷の箇所が回復しない、いやチガウ、回復はしてるけど、治る速度が異様に遅い。
「杉野さん、時間がかかってごめんなさい。いつもはこんなに遅くないんだ。どうして今日は治りが悪いんだろ。早くみんなの所に行きたいですよね、もうちょっと待ってください、」
焦ってしまう。
ずっとこの調子だ。
全回復してくれない。
ちょっと治って、停滞して、またちょっと治る、さっきからこの繰り返し。
なんでだろ……癒しの腕が落ちたのか?
ついさっき、”僕にしか出来ない事を頑張る”なんて思ったばかりだというのに、これじゃあ役に立てないよ。
汗をかいて癒し続ける、そんな僕をまったく視てない大鎌使いは(や、だって半分寝てる、杉野さん、目ぇ瞑っちゃってる)、脱力声で言ったんだ。
『焦らなくていい、大丈夫だ、治りが遅いのは岡村のせいじゃない。小蛇の瘴気のせいなんだ。俺の霊体に瘴気が入り込んでいる。長のはしつこいからな、時間がかかるのは当たり前だ。ゆっくりやってくれ』
「小蛇の瘴気が入り込んでいる……? それって要は毒蛇だったって事ですか? 杉野さん……それわかってて直接刈りに行ったんです? 一匹二匹じゃないのに? 何百何千何万といたのに?」
嘘だろ……?
毒蛇だってわかってて、なのに刈りに行ったのか?
巨大な蛇に飛び乗って、大鎌で切断し、千切れた少蛇を大量に浴びながら、毒に侵され続けながら、それでも最後まで刈り切ったというのか?
ああ……だからか、途中で杉野さんは叫んでた。
____ドチクショォォォォォォオオオオオオオオオッ!!
と。
辛かったんだ、きつかったんだ。
なのに逃げずに、なのに諦めずに、みんなの為に____
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