第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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『岡村。治療、ありがとな』 え? っと……いやそんな。 杉野さんを治療するのは当たり前の事だし、むしろ時間がかかって申し訳ない。 僕がんばりますから、だからもうちょっと待ってくださいね。 『時間? そんな事は気にするな。治してくれて感謝してる。だがそれだけじゃない。お前が飲ませてくれた彰司さんの霊力(ちから)の欠片。あれのおかげでこの程度で済んだんだ。千切った小蛇を浴びてた時、毒が俺を侵し続けた。が、同時に欠片が修復をし続けたんだよ。ありがとうな』 ううん、僕は頭を左右に振った。 それは僕の霊力(ちから)じゃない、瀬山さんの霊力(ちから)だよ。 瀬山さんが守ってくれたんだ。 杉野さんを、僕達を。 『ああ、それと。パンも旨かったよ。久しぶりだ、現世の食べ物を味わったのは』 パン……? ああ、あれか! G・Aネクロマンサーさんの奥さんが持たせてくれたパン。 さっき、槍の中の空間で、僕は4日分のパンをぜんぶ食べてしまった。 止まらなかった、甘みがあっておいしくて胃に染みるようだった。 僕はてっきり、霊力(ちから)の使い過ぎでお腹が空いたのだと思ってた。 みんなが作戦を練る横で、鎖の構築時間を短くするべく、また、鎖の親玉を極力小さくするべく、1人でずっと練習してたんだもの。 だけどそれだけじゃなかったんだ。 そうか……あのパンは、僕とみんなで(・・・・)食べたんだな。 ”召し上がれ”とは言ってないけど、それでも味わえたのは、たぶん、きっと、僕とみんなが瀬山さんの霊力(ちから)で繋がっているからかもしれない。 ホントのトコはわかんないけど、それでもし味わえたのだとしたら……ははは、なんだろ、すっごくすっごく嬉しいや。 そんな話をずっとしながら、僕は杉野さんを癒し続けていた。 焦っていれば時間は長いが、話していれば短く感じる。 そしてとうとう、(おさ)の毒が抜けきった。 2班と3班、送り出した中村さんが聞く。 『杉野、行けるか?』 大鎌使いは僕の肩をポンと叩いて立ち上がる。 『ああ、』 たったの一言。 答えた手練れは巨大な鎌を軽々担ぎ____ ____振り返ったその表情は、眩しいくらいに破顔していた。
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