第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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◆ 『ウォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!』 雄叫びの大鎌使いが助走をつけて高く飛ぶ。 厳つい霊体(からだ)を仰け反らし、戻す力で刀身を振り落とす。 鋭利な(やいば)は大蛇の背中にぶっ刺さり、鱗の肌を斬り裂きながら降下した。 ギィィィァッッ!! 叫んだ声は、割れてしゃがれて苦痛の色に染まってる。 とぐろに巻かれた長い霊体(からだ)がドシャリと潰れ、傷からは大量の黒い液が溢れだした。 『杉野っ!』 斬り込み隊に第2班、そして援護の第3班。 男達は戻った仲間のその名を呼んだ。 『遅れて悪かった。大橋、手は大丈夫か? (かける)、さっきは頑張ったな』 遅刻の詫びだと合流早々、大蛇の霊体(からだ)(やいば)を立てて、みんなの士気を一気に上げた。 男達が気合いの叫びを力強く重ねると、霊力(ちから)が漲り溢れだす。 2班のみんなと斬り込み隊、三手に分かれて大蛇を囲み、苦内(くない)に銃、ノコギリ、こん棒、もちろん大鎌、途切れる事なく攻め立てた。 その攻めを、大蛇は霊体(からだ)をうねらせ払い除け、尾を振り上げて応戦するも、グルリと囲む援護隊がそれを阻止。 豪速の石を飛ばし霊矢を飛ばし、死角無しの全方向。 大蛇の動きをいちいち邪魔して、その隙、斬り込み隊と第2班が数ダースの攻撃を叩き込む。 男達の腕は一流。 それもそのはず、毎日毎晩昼夜を問わず吐くほど修行を積んできた。 彼らの事は(ひと)と思わず駒と視る、ブラック上司に強要されてこれでもかと鍛えてきたのだ。 (おさ)にしてみりゃ強い手駒を作る為、だったんだろうが皮肉だな。 血反吐の修行は結果今、(おさ)自身を追い詰める。 鎖鎌が斬り付けて、負傷の大蛇を鉤縄が締め上げる、咆哮の開いた口には大上さんの拳銃が、丸山さんの霊刀はゴッソリ鱗を剥ぎ取った。 動きが鈍る大蛇の背中、まばらに残った毒の小蛇は、シャーシャーと威嚇をするが、その餌食になる者一人もいない。 長い霊体(からだ)にみるみる傷が増えていく。 傷から垂れる黒い液は修復をかけるけど、こん棒使いは執拗で、傷の半分も治させない。 すごい、すごいぞ……! みんなが(おさ)を圧倒してる……! これが本来の姿、”瀬山の霊媒師達”なんだ……! 絶え間ない攻撃は反撃の隙すら奪う。 (おさ)霊体(からだ)は大きいけれど、人じゃない、蛇なのだ。 手指が無いから印が結べず、結果、(おさ)からの攻撃は限られたものになっていた。 だが忘れてはいけない。 これだけ優位に立てるのは背中の小蛇がいないからだ。 いなければ近づける、毒にやられる心配がない。 杉野さんの霊体(からだ)を張った功績が、今此処で実を結んだのだ。 「中村さん……これ……もしかして、このまま一気に勝てますかね……? だってみんなが優勢だ。今の(おさ)は印が結べない、だから術も発動しない、体術しか頼れるモノがないんだ。毒の小蛇は杉野さんが刈ってしまったもの。巨体にさえ気を付けてれば……勝てますよね、」 言いながらドキドキしていた。 もちろん油断はしない、しちゃいけない。 でもさ、こんなにみんなが優勢だと、どうしたって期待しちゃうよ……!
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