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ポニテのいぶし銀、中村さんはすぐには答えなかった。
前を視る横顔は硬く、口角が下がっていた。
そして大福も。
三尾は虎の子サイズのままの姿で、僕の横にピッタリとついている。
微かに毛を逆立てて、時折低い唸りを上げて、やはり前を向いていた。
中村さんが答えてくれたのは、大きな音と共に大蛇が地に沈んだ時だった。
僕の歓喜の声を聞き、それを止めるようにこう言った。
『喜ぶのはまだ早い。これからだ』
「え……? だって倒れたのに?」
『あの程度でくたばってくれるならな。喰われるのを差し引いても、もっと早くに仕掛けていたさ』
「…………」
『だが全班、よく頑張ってくれてる。長の霊力は相当削ったはずだ。しかも背中の小蛇は少しだけ。勝機はある』
中村さんは前を視たまま、目にグッと力を入れた。
心なし……微かな緊張を感じる。
その緊張感が伝染し、僕の声は小さくなる。
「これで終わりじゃないなら……長はどんな攻撃をしてくるのかな、……や、だって印が結べないもの。少なくとも印を必要とする術は使えないでしょう? あとは……言霊……?」
『言霊も、だ。それからな、数は減ったが小蛇はまだいる。いいか、岡村。小蛇には触れるな、絶対に噛まれるな』
「……はい! 毒があるもの……気を付けます」
『ああ、頼むな。小蛇は毒が恐ろしい。だがそれだけじゃない。もうひとつ、厄介な事があるんだ。それは、』
それは____
言いかけた中村さんが大きく舌打ちをした。
目線は前だが位置が高い。
僕も視線の先を追う、
……
…………
………………
グシャリと潰れたはずだった。
長い霊体は傷だらけで修復もままならず、満身創痍の瀕死状態。
勝利が見えた、みんなが勝つんだと……思っていたのに。
曇天の灰の下。
ユラリと蛇が立ち上がり、高い位置から僕らを視下ろす。
傷の霊体のまわりには、黒い何かが数多に漂う。
あの黒いのはなんだろう……?
視力はいまだに2.0、目を凝らして凝視する……と。
黒いのは……記号……いや、文字か?
身近な言語じゃない。
見た事のない形だ、強いて言えば梵字に近い。
正体はわからない、だけど感じる強い既視感、
____小さくて可愛らしい、
____声が出せない女の子、
____代わり、天から文字を降らす、
弥生さんの鉄の守護、ヤヨちゃんだ。
ヤヨちゃんが話す時、声の代わりに文字を降らせる。
紫色に優しく光り、ふわりふわりと羽のように。
大蛇のそれはヤヨちゃんのとは随分と違う。
黒く乱れ飛び、不吉なモノを感じた。
「中村さん……あの文字みたいなの、何ですか……?」
目線を戻し、隣の横顔に疑問を投げる。
が、中村さんは僕には答えず大声を上げた。
『大橋! 近藤! 陣を天に!』
指示のすぐあと、男二人は天に向かって両手を上げて、果てまで広がる巨大な陣を展開させた。
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