第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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『岡村、』 中村さんが僕を視た。 表情は硬いものの目には力が宿ってる。 屈しない男の目だ、やる気が漲っている。 『私はこれから現場に入る。あれでは全班動きが取れないからな。岡村は三尾と一緒に此処にいてくれ。そして誰かが(おさ)に喰われたら、お前の霊力(ちから)で助けてやってほしい』 「もちろん……! 必ず助けますから安心してください」 誰一人喰わせない、僕は僕にしか出来ない事を全うする。 ああ、だけど心配だよ。 僕にもっと力があれば良かった。 『”必ず助ける”、か……、ありがとう。最後の最後で会えたのが岡村で良かった。お前が滅してくれるのなら本望だ。……と、その前に、まずは(おさ)を滅さなくてはな。(おさ)はお前の身体を欲してる。お前を一人にしても傷付ける事はないと思うが、それでも用心しろ。何かあったらさっさと逃げろ、我々の事は放っておけばいい』 …………中村さんも、森木さんと同じ事を言うんだな。 だけどさ、 「お気遣いありがとうございます。でもね、僕、逃げませんから。ずっと此処にいますから。此処にいて、みんなが喰われないように見張ってるんだ。大丈夫、怖くないです。だって信じてるもの。みんなは(おさ)より強い。なんたって”日本で一番の霊能軍団、瀬山の霊媒師達”だからね。だから絶対に(おさ)を倒してください、勝って戻って来てください。……そ、そしたら僕、みんなを……こ、心を込めて、滅します。そう、滅するんだ、(おさ)にやられて消滅するんじゃなくて、すべてが終わったら、ぼ、僕が、み、みんなを……あぁ……ごめ、ごめんなさい、」 ああもう、途中までは頑張れたのに、結局僕は泣くんだな。 辛いのは僕じゃないのに、みんななのに、戦ってるのもみんななのに。 情けない僕を視て、中村さんは困ったように笑った。 『そうだな、お前の言う通りだ。(おさ)にやられてたまるものか。約束する、必ず滅して帰ってくる。岡村に送り出してもらう為にな、』 うん____頷くだけで精一杯だ。 中村さんはニコッと笑って手指を絡め、結びかけの印を完結させた。 老練はおもむろに両手を上げた。 手首の力をダラリと抜いて、息を吸い、そして、その枯れた手を勢いよく振り下ろす。 ブンッ、と鈍い音がした____と、両手には、さっきまでは無かったはずの大きな剣が握られていた。 三日月のような弧を描いて、刀身だけで1メートルはありそうな。 銀色に鈍く光るも艶は無く、まるで中村さんのような剣だった。 中村さんは僕を視て、大福も視て、 『じゃあ行ってくる。此処で待ってろ、』 そう言い残して一歩二歩と前に出る。 両腕は下げたまま。 剣の刃先を地面に着けて、三歩、四歩、五歩六歩で走り出す。 そこから先は全力で、それでも腕は下げたまま。 刃先が地面に引きずられ、ガガガガガっと音が鳴り、土の上には走った跡が刻まれる。 尚も引きずり続けると、摩擦の力か刀身に真っ赤な火花が散り出した。 走って走って、みんなの横を通り過ぎ、今、巨大な蛇の正面で____飛んだ! 中村さんは長い助走を力に変えて、大蛇の瘤の顔前に出た。 ギンッ!! 高くて濁った音がして、二刀の剣はバツの形にぶつかり合った____その時、 突如、刀身から真っ赤な炎が噴き出した。 ゴウゴウと燃え上がる大剣、そのバツの形を解く勢いで、大蛇の霊体(からだ)を切り裂くと、着地と同時に間髪入れずに二刀を腹にぶっ刺した。 深く、深く、これでもかと刺し込んで、 『ウオォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』 絶叫した中村さんは肩に力をうんと込め、腹に刺さった二刀を握り、それで、ああ、ウソだろ……!? 腰を落として、身体を捻り、蛇が、大蛇の霊体(からだ)が地から離れて、それで____ ドーーーーーーン!!! 大蛇は背負い投げられたんだ!
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