第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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長い霊体(からだ)が大地の上に投げられた。 辺り一面、土煙が舞い上がり、視界がすこぶる悪くなる……が、悪環境にも関わらず、剣を抜いた中村さんは休む間もなく走り出した。 腹から走るは上部側、すなわち瘤の顔がある方向。 全速力で助走をつけると瘤の頭に飛び乗った。 乗られた大蛇は音にならない叫びをあげて、振り落とそうとする、も、動きは中村さんが早かった。 両手に持った剣の刃先を下に向け、勢いつけてしゃがむ動きで、縦に真下に大蛇の頭に突き刺した。 アガァァァッ!! 今度は音になる、大蛇の叫びが響き渡る。 首から下の長い霊体(からだ)が激しくのたうち、土煙を上げている。 だが頭は動かない、そう、動かしたくても動かせない。 二刀の剣は頭を貫通、口の中を通過して顎の下へと抜けている。 大地と大蛇は剣によって縫い付けられて、動く事がままならない。 大蛇が動けないのを確認すると、中村さんは印を結んで手を振り下ろし、新たな剣を出現させた。 そして今度は鱗の背中に剣を突き立て、頭よりも下部側。 すなわち尾の方向へと走り出した。 ビタンビタンと暴れる霊体(からだ)を器用に落ちずに全力疾走。 引きずる刃先は鱗ごと切り裂いて、うねる霊体(からだ)に走った跡が刻まれる。 先程同様、尚も引きずり続けると、摩擦の力で刀身に真っ赤な火花が散り出した。 走って走って、尾の先まで辿り着くと、中村さんは剣を引き抜き地に降りた。 長い霊体(からだ)の背中には、二本の傷が延々パックリ開いている、が、そこから流れる黒い液が早々に傷の修復をかけ始めていた。 せっかくの攻撃がこれじゃあ……僕は悔しい気持ちでいっぱいになった。 あの修復機能を何とかしないと、イタチごっこになってしまう。 暴れる霊体(からだ)が一層激しく黒い液をまき散らす。 縦に横に波打って、半端じゃない暴れ方。 視れば上部側、今まさに大蛇が頭を振り起こした所だった。 強引に、頭から顎にかけて剣を刺したまま、燃えるような赤い眼で中村さんを睨みつけていた。
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