第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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『間もなく____』 中村さんの声がした。 消えたお爺ちゃん二人組も(姿はすこぶる若いけど)気になるが、ひとまず僕はみんなに集中する事にした。 (おさ)がいつ襲ってくるかわからないもの。 『間もなく炎が消える。中から現れるのは大蛇じゃない。大きな霊体(からだ)を保つだけの霊力(ちから)はもう無いはずだ。次にどんな姿で現れようと、我々のするべき事は一つ。霊力(ちから)を削って削って削りまくる。そして無に還す、滅するんだ。第1班は積極的に前に出ろ、2班は死角に回り不意を突け、第3班は先ほど同様、1班2班の援護だ。大橋と近藤は負傷者を視てやってほしい。きっと、……これが最後だ。全員で滅し、必ず全員で生還しよう』 静かな声に(かける)君も杉野さんも、みんなも一斉に頷いた。 一拍遅れて中村さんも、大きく頷きニコッと笑った……のだが、すぐに引き締め素早く視線を前に飛ばす。 そして深く息を吸い込むと、 『来る、』 一言、呟いた。 消えかけた炎はしぶとくて、いつまでも囁くように燃えていた。 長い霊体(からだ)は随分と小さくなり、黒く焼け焦げ炭と化してる。 時折痙攣くらいはするものの、動きはほぼない。 このまま動かず尽きてくれたら……願わずにはいられなかったが、そううまくはいかなかった。 ボコ……ボコ、ボコ…… これ……なんの音だ?……と眉を寄せたのと同時。 突然、炭が蠢き始めた。 波を打ち小さくひび割れ、内側から突かれたようにボコボコと、炭の霊体(からだ)は、あっという間に突起だらけになった。 ゾワリとする……視ていて気持ちの良いものじゃない。 だがこれは、ほんの始まりに過ぎなかった。 この後、僕は悍ましいものを視る。 数多の突起は小刻みに震えていたが、その先端から、突起と同じ数だけの蛇が速度を持って突き破ってきたのだ。 「……ウッ……」 胃液が込み上げる。 炭の霊体(からだ)が視えなくなる程の蛇だ。 一体何匹いるのか見当がつかない。 揺らめいて蠢いて……また蛇を生やすのかと舌打ちをした……が、予想に反し、数多の蛇は炭から抜けてズルズルと這い、やがて一ヶ所に集まりだした。 今度のは大蛇じゃない、ごく普通(?)の大きさだ。 それらの蛇が互いに巻き付き、互いを喰らい、複雑に絡み合う。 粘液にまみれ、その粘液を接着剤とし、やがて、人の形に編み上がった。 霊体中(からだじゅう)に散りばめられた眼は、うんざりするほどギラギラとしていた。
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