第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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最後の方は絶叫に近かった。 同時、霊体中(からだじゅう)の蛇達の眼が光る。 (おさ)は一呼吸置いた後、 『ゆえに礼を言う。お前達の悪行が餌となり、彰司と岡村を引き寄せたのだ』  最悪だ……自分勝手極まりないよ。 (おさ)の為に来たんじゃない、少なくとも僕は、修行の為に(ここ)に来たんだ。 事情を知って修行どころじゃなくなったけど、滅する気持ちは変わらない。 それに……よく言う、”瀬山の(おさ)”に返り咲く為だって? そんなちゃちな願い(・・・・・・)の為に、どれほどの人が人生を壊されたか。 『餌としては優秀だった、が、お前達に失望したのも本心だ。本来なら(めい)通り、彰司を抑え、岡村を拘束し、私に差し出すべきなのだ。それを……身の程知らずの愚か者は謀反を起こした、わかっているのか? 罪は、重いぞ』 ザラつく声が一段と低くなり、蛇の顔が黙るみんなを凝視した。 そして……なんだ……? (おさ)は何をしているんだ……? 腕が……上がった。 数多の蛇で編み込んだ、腕らしきを胸の前に持ってくる。 左右のそれを向かいに合わせ、腕の先端、手のひららしきの更に先には長短混ざった細い小蛇が蠢いていた。 左に5匹……右にも5匹……計10匹の小蛇らは、人の指によく似てる。 それらを重ね、複雑に絡めだし……ああ……あの動き……あれは……あれは……印だっ!! 「みんな!! 逃げて!!」 僕は喉がひりつくくらい、腹の底から声を上げた。 (おさ)は印を結んでるんだ! 蛇の霊体(からだ)じゃ結べないと思ってた、手指がないから、印は無理だと思い込んでた! クソッ! 先入観は良くないと、さっき思ったばかりなのに! 『遅い、』 淡々とした(おさ)の一言。 その直後、一千はあるだろう太い長針が、蛇の霊体(からだ)を中心に360度の全方向に飛ばされた。 みんなは上に、横に、咄嗟に避けるも、全てを避ける事は出来なくて、足や腹に無数の穴を開けていた。 それを視て……僕は言葉が出なかった。 そう、刺さるどころじゃない、長針はみんなの霊体(からだ)を貫通したんだ。 すぐに動いたのは大橋さんと近藤さんだった。 眩く両手を光らせて、みんなの治療にあたってる。 自分達の傷は後に回して、必死になって霊力(ちから)を使う……が、それに対して中村さんが声を上げた。 『大橋! 近藤! ありがたいが2人して治療にあたるな! どちらか1人は先に自分を治療しろ! 救助班が全滅しては班全体が危機となる! 私の治療はしなくていいから、早く!』 頷いた救助隊は命令に従った。 大橋さんは一歩下がって自己治療、近藤さんはみんなの治療を継続だ。 (おさ)はつまらなそうな空気を出して、またも印を結びだす。 『治療など無駄な事を。希少の子らは此処にいる、お前達は用無しだ。喰ろうて霊力(ちから)にしてもいいが岡村が邪魔をする。ゆえに利用価値は無くなった、』 絡む小蛇がピタリと止まり、それは印を結び終えた事を意味していた。 (おさ)が両手を空に向けると、途端、暗雲が立ち込めた。 だがよく視れば雲じゃない、たくさんの黒い塊が頭上を浮遊してるのだ。 あの塊……視れば梵字によく似てて…… 『消えるがいい、』 言った(おさ)が両手を下げた。 その動きに連動し、梵字は浮力を失った。
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