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多量の梵字が一気に落ちると、みんなの霊体が次々地面に潰された。
時間にすれは数秒で、『あー』も『うー』もない。
落ちた梵字は山となって積み上がり、誰の姿も、誰の声も、すべてを隠し埋めてしまった。
え……待ってよ……みんな……無事だよね?
こんなことで消えないよね……?
ねぇ、なんか言ってよ、合図をしてよ、こんなのあまりに呆気ないよ。
汗が滲む、耳を澄し、目を凝らして山を視るけど、ただそこにあるだけで動かない。
いくら待ってもシンとしたまま、僕の心臓が速くなる。
目の先では、長が再び印を結びだした。
指の代わりに長短混ざった10匹を、複雑に、だが確実に絡め合うと、梵字の山に火花がちらほら散り出した。
最初は少し。
だけどすぐに数は増え、登るように下から上へと、瞬き数度で山全体に広がった。
嫌な予感だ、良い事なんて絶対ない。
長が何をしようとしてるのか、薄く頭に浮かんだ途端、僕は走り出していた。
「待って! ちょっと待って、」
こんな事を頼んだ所でやめてはくれない、そんなのはわかってる。
だけど言わずにいられない。
だってみんなの顔が浮かぶんだ。
最初は能面だったのに、たくさん話をしてみれば驚く程に豊かな表情を視せてくれた。
さっきだってそうだ。
翔君が笑い転げて、つられてみんなも笑顔になって、ほんの一時、悪霊だった事も長の事も忘れて、それで____
____僕の声に長は首だけで振り向いた。
「だからっ! 待ってくれって言ってるだろ! ねぇ待って、お願い!」
走って走って、叫んで走って、やめてくれ、間に合ってくれ、頭の中はそれだけでいっぱいで、なのに長は応えない。
応えぬかわりに淡々と、蛇の手を向かいに合わせ、そこに何かを唱えると小さな蝶が現れた。
長のまわりを飛ぶ蝶は、色は赤く二枚の羽は燃えている。
燃えてるのに飛べるのか? そう疑問が浮かんだけれど、良く視れば違う。
あれは燃えてるんじゃない、羽自体が炎で出来ているんだ。
長は恍惚とした声で言った。
『あやつらを、私と同じ目に遭わせてやらねばな。____行け、』
”行け”と言われた炎の蝶は、長から離れて優雅に飛んで、やがて山に辿り着く。
火花散る山肌で羽を休めた途端。
ゴォッ!!
山は一気に燃え出した。
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