第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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「なんて事をするんだ! 中にはみんながいるんだぞ!」 怒りのあまりに怒鳴り散らすも、燃え上がる炎を前に、僕は手も足も出せずにいた。 この炎は現世のとは違う、霊力(ちから)で構築されたもので本物じゃあない……はずなのに、僕から視れば色も熱さもなにもかも、現世の炎そのものだった。 近付けば髪の焼ける匂いが上がり、肌は焙られヒリヒリと痛みだす。 クソッ! 今此処に先代はいない、瀬山さんもいない、僕と大福の2人きり、どうすればいい? どうすれば助けられる? 社長ならどうするかな、弥生さんならどうするかな、ウチの斬り込み隊はなんて言って、どう動くかな、あの2人なら____ ____きっと何も考えない、考えないで斬り込むはずだ。 そうだ、考えたって炎は消えない、もっと思考を単純に、消えない炎に阻まれるなら、いっそ近付かなければいいんだよ! 僕は手早く鎖を構築、 人数分の27本、 これを山に向けて思いっ切り…………投げるっ! 喰われたみんなを引っ張り出すのとおんなじだ、 鎖でみんなをグルグル巻きに、そして山から助け出すんだ! 飛んだ鎖はうねりもせずに真っすぐに、最短ルートを辿ってる。 どうかお願い無事でいて、鎖に捕らわれ此処まで戻って、僕の元まで帰ってきてよ! 瞬き4つで鎖の束は山に到達。 先端が炎に焙られ鋭い火花が散り出した。 バチバチと音をさせ、鎖は(なか)に入り込もうと奮闘する、……も、入っていかない。 阻まれて、時間だけが消費され、結果、鎖は炎に溶かされ消えた。 「なんで…………、」 血の気が引く、鎖でなんとかなるはずだった。 なのにならない、鎖は無くなり手の中の親玉も消え去った。 『無駄だ、もう奴等を引き出す事は出来ん』 しわがれた声が馬鹿にしたように言った。 「……引き出せない? どうして! 僕の鎖に何をしたんだ!」 言いながらも気持ちが焦る、いまだ山は燃えている。 中のみんなが心配でたまらない。 『岡村よ、見くびるな。先程……私が奴等を喰ろうた時、お前は2度も奪い返したではないか。だがな、それはすなわち、同じ術を2度も私に視せたという事。それだけ視せれば私が策を立てても然りであろう。あの炎は鎖を阻む結界だ。何をどうしたのかは知らんが、奴等の内にある霊力(ちから)、それとお前の鎖に含まれる霊力(ちから)、これらが引き合う。この霊力(ちから)…………彰司のものだな、』 最後は憎々し気に、(おさ)は息子の名前を口にした。
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