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ゴウゴウと立ち上がる火の壁。
グルリと360度、囲んで燃えて、逃げ道がなくなった。
正面には長がいて、その距離目測4……いや、3メートル半。
火壁を視上げれば、高さはウチの会社の屋上くらい、すなわち3階建てのビル相当だ。
とてもじゃないけど飛び越えられない。
筒の形の炎のてっぺん、そこはポッカリ穴が開き曇天が視てとれた。
足音もさせず、スウと大福が前に出た。
毛を逆立てて、唸りを上げて、三尾は膨らみ激しく左右に揺れている。
僕を守ろうとしてくれてるんだ……ありがとう、心強いよ。
正直……ものすごく怖い。
火に囲まれた圧だろうか?
さっきまでは感じなかった恐怖心だ。
蛇の霊体は目にきつく、退路を失くした至近距離に長がいる。
僕を襲う気で、魂を喰らう気でこちらを視てる。
無数の赤眼に睨まれて、膝も、手も、ガタガタと震えだす。
喰われたら、無になる。
僕という人格も、存在も、何もかもが消えてなくなるんだ。
それだけなら……嫌だけど、まだいい。
僕の身体を手に入れた長が、好き勝手に誰かを傷付けるのかと思うと、また誰かの人生を壊すのかと思うと、怖くて怖くてたまらない。
第二、第三の”みんな”を作りたくないよ。
先代も、瀬山さんも、大福だって傷付けるかもしれない。
そんなの……そんなの絶対に嫌だ!
特に大福は、今此処にいるんだ。
乗っ取られた途端、襲われるかもしれない。
そうなる前に逃げてほしい、僕の事は放って、出来るだけ遠くへ。
大福____言いかけた僕より先に、長が声を発した。
『ふむ……三尾か、この目で視るのは初めてだ。猫又よ、獣は火が怖かろうて。無理をせず逃げたらどうだ。お前の主人はもうすぐ消える。守ろうなど無駄な事。それとも……これより先は私に仕えるか? 中身は変わるが入れ物は同じであるぞ、』
含んだ笑い、言い方がいちいち腹立つ、と思ったのは僕だけではなかったようで……
『おぁぁ?』
すぐ目の前、後ろ姿の猫又はご機嫌斜めに短く鳴いた。
そしてトラの子サイズの前足で、ザッザッザッと豪快に地面をかきだしたのだ。
ザッザッザッ。
何度も何度もしつこいくらいにザッザッザッ。
こんな窮地にザッザッザッ。
空気を読まずにザッザッザッ。
あてつけみたいにザッザッザッ。
これ、猫がトイレの後に砂をかける仕草じゃない。
激しい拒絶だ。
”オマエに仕えるなんて、やニャこった!” と、強くキッパリ拒否ってる。
大福…………ドストレートだな。
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