第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

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はは……ははは……あはははは。 どんな時でもマイペース、強くて可愛い猫又に肩の力が抜けた。 力が抜けると少しは頭が働いてくれる。 そうだよ、怖がってもそうでなくても(おさ)は来る。 囲まれた空間に逃げ場はない。 どっちにしたって来るのなら、ダメで元々、とことん抵抗しようじゃない。 うまくすれば逃げられるかもしれないよ。(確率は低いけど)。 失敗したって大丈夫。 もしも僕が喰われても、先代と瀬山さんがいる。 だってさっき頼んでおいた。 僕が僕でなくなったら、”2人で僕を消してください”ってさ。 囲む炎はすこぶる熱い。 けれど、僕は冷静さを取り戻していた。 恐怖心が薄れる代わり、覚悟とやる気が満ちてくる。 その気持ちを燃料に手指を絡めた。 もう何度目だろう、慣れた作業になりつつある霊矢の印だ。 『……ほう、抵抗する気か』 霊矢を構えているというのに、(おさ)は動じず半笑いだ。 目鼻がなくてもそれがわかる。 霊体中(からだじゅう)の蛇の眼が揃って三日月になったもの。 ふん、怯むものか。 「もちろん。負けないからな」 言ってやった、ダイジョウブ、膝も手も震えは止まった、僕はやれる。 『負けないだと? 笑わせるな。霊力(ちから)はあっても技術がない、未熟者に何が出来るというのだ』 三日月眼の蛇達が一斉に口を開けた。 シャーシャーと空気を漏らし、粘液が糸を引く……気持ち悪いな、まったく。 「そんな事は知ってるさ、バカにするな。やる気はある、技術はこれからだ。今の僕は”質より量”の霊媒師。だけどね、その”量”だけは自信があるんだよっ!」 地を蹴り大福よりも前に踏み込み、両手両五指、真っ赤な霊矢を撃ち込んだ。 1度に10発、それをまずは10セット。 そう広くない炎の筒は動ける範囲が限られる。 (おさ)は避けるも数撃ちゃ当たる状態で、命中率が低い僕でもその半分はヒットした。 ヨシッ! 心の中で拳を握る。 その後も狭い範囲の中で、右に左にジグザグに、ひたすら霊矢を撃ち込んだ。 質より量の霊媒師に数量制限はない、だったら。 ケチケチするな、気前良く景気良く、たっぷり(おさ)にくれてやれ!
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