第二十章 霊媒師 瀬山 彰司

178/267
前へ
/2550ページ
次へ
「はぁ……はぁ……」 息が切れる。 狭い範囲で短時間ではあるものの、走りっぱなしは身体に堪えるよ。 だけど____ (おさ)の動きが止まった。 質より量のザンネン霊媒師は、狂ったように霊矢を撃った。 グルグルと走り回って、前から横から後ろから。 僕の身体を傷付けたくない(おさ)に付け込み、これでもかと放ったのだ。 今の(おさ)は串刺しどころの騒ぎじゃない。 針多めのサボテンのごとく、真っ赤な霊矢が隙間なく刺さり込み、元の霊体(からだ)が視えてこない。 刺さりすぎてて霊体(からだ)の可動がままならず、尚且つ、蛇をほどいて編み直そうにも、霊矢に邪魔されそれさえも出来ずにいた。 それでも、まだ息はあるようだ。 立ったまま固まる(おさ)は、さっきのように饒舌ではないものの、シャーシャーと音を漏らし、時折霊体(からだ)をビクつかせていた。 動かない今のうちに一旦退くか、それともトドメを刺すべきか……迷うところではあるけれど、たっぷり1分思案した結果、僕は退く事を選択した。 「大福、今のうちに此処から脱出しよう。みんなの所に行かないと。諦めない、絶対に助ける」 霊矢を撃ってる間も、大福はずっと僕をフォローしてくれた。 ありがとうね、これがぜんぶ終わったらアパートでゆっくりしよう。 ちゅるーをあげる、ささ身も茹でてあげる、なんでも好きなもの食べさせてあげるからね。 さて……此処からどうやって出よう。 まわりを視れは火の壁が、視上げた先には曇天が、出口は遠く、炎を足場にするのは不可能だ。 僕が霊だったらなぁ、高く飛ぶ事が出来るのに。 中村さんも杉野さんも(かける)君も、引く程高く飛んでたっけ。 思い出し、ダメ元でジャンプする……が、やっぱりね。 生者はせいぜい数十センチが限界だ。 ……フゴ……フゴフゴ……フゴフゴフゴフゴ…… ん……? 首の後ろがくすぐったいな……って、振り向かなくてもわかる、大福でしょ。 大福は僕の匂いを嗅ぐのが好きだ。 ふとした時とか寝る前とか、隙あらばフゴフゴするのよね。 それされるの大好き、めちゃくちゃ幸せな気持ちになるもん。 でもさ、なんで今? 「大福ー、フゴフゴはまた後で。早くココから脱出しなくちゃいけないし、それにさ、(おさ)がいつまた動き出すかわからないでしょ?」 振り向いて、顎の下をコチョコチョしながら言い聞かせた。 だがしかし、姫は不満なお顔になって、 『うなっ! うっなー!』 ちがうー!とプリプリだった。
/2550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2366人が本棚に入れています
本棚に追加